がんは、肥満、糖尿病、閉塞性肺疾患、心不全など多くの慢性疾患と同様に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の危険因子であることが明らかになりました。他方で、最近、免疫療法が急速に進歩して、進行がんに対しても積極的に治療を行える症例が増えました。そこで懸念されることの一つは、免疫療法により、免疫系が活性化・撹乱されることが、COVID-19のサイトカインストーム*1に影響しないかということです(図1)。この問題に対して、米国・ダナ・ファーバー癌研究所(Dana-Farber Cancer Institute)のZiad Bakouny博士らは、COVID-19を発症したがん患者において、免疫療法単独ではCOVID-19の重症化やサイトカインストームのリスクは増加しにくいが、抗がん剤や放射線療法など他の治療法によりすでに免疫抑制のあるがん患者に免疫療法を実施した場合は、COVID-19の重症化やサイトカインストームの発生につながるリスクがあることを報告しました。これは、がんの治療において重要と思われますので、今回はこの論文(文献1)を取り上げます。
文献1.
Ziad Bakouny, et al., Interplay of Immunosuppression and Immunotherapy Among Patients With Cancer and COVID-19., JAMA oncology. 2022 Nov 03; 
【背景・目的】
抗がん剤や放射線療法などのがんの治療がCOVID-19の重症化を促進することはよく知られているが、がんの免疫療法がCOVID-19に及ぼす効果に関する報告はない。したがって、本研究はこの問題を明らかにすることを目的とする。
【方法】
- 本研究は、2020年3月~2022年5月にCOVID-19 and Cancer Consortium(CCC19)レジストリ*2に報告された1万2,046人のがん患者を解析した後ろ向きコホート研究*3である。
- 解析対象は、SARS-CoV-2感染が確認された(PCRまたは血清学的所見)がん患者もしくはがん既往歴のある患者で、COVID-19診断前3ヵ月以内に免疫療法(PD-1/PD-L1/CTLA-4阻害薬*4など)で治療された免疫療法群、免疫療法以外(細胞傷害性抗がん剤、分子標的療法、内分泌療法など)で治療された非免疫療法群、未治療群に分けた。
- 主要評価項目は、5段階の重症度(1.合併症なし、2.酸素吸入を要しない入院、3.酸素吸入を要する入院、4.集中治療室入院/機械的人工換気、5.死亡)とし、副次評価項目はサイトカインストームの発生とした。
【結果】
- 全体の年齢中央値は65歳(四分位範囲:54~74)、女性が6,359人(52.8%)、非ヒスパニック系白人が6,598人(54.8%)であった。免疫療法群は599人(5.0%)、非免疫療法群は4,327人(35.9%)で、未治療群は7,120人(59.1%)であった。
- 免疫療法群はCOVID-19重症度(調整オッズ比[aOR]:0.80、95%CI:0.56~1.13)、および、サイトカインストーム発生(aOR:0.89、95%CI:0.41~1.93)で未治療群と差を認めなかった。
- 免疫抑制状態で免疫療法を受けた患者では、未治療群と比較して、COVID-19重症度(aOR:3.33、95%CI:1.38~8.01)、および、サイトカインストーム発生(aOR:4.41、95%CI:1.71~11.38)が増加した。
- 免疫抑制状態で非免疫療法を受けた患者においても、未治療群と比較して、COVID-19重症度(aOR:1.79、95%CI:1.36~2.35)、および、サイトカインストーム発生(aOR:2.32、95%CI:1.42~3.79)が増加した。
【結論】
免疫抑制のあるがん患者に免疫療法を行なった場合、COVID-19は重症化、および、サイトカインストーム発生が増加するリスクがあると考えられた。