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2022/12/27

COVID-19ワクチン接種による帯状疱疹の危険性は?

文責:橋本 款
図1.

小児期に水痘・帯状疱疹ウイルスに感染すると、水疱瘡に罹患しますが、治癒後も、ウイルスは背骨に近い神経節に潜伏しており、加齢やストレス、過労、後天性免疫不全症候群など、免疫力が低下した時に再活動し、帯状疱疹*1 が起きることが知られています。これまで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においても、罹患後の後遺症としての帯状疱疹のリスクが言われてきましたが、さらに注目すべきことに、COVID-19のワクチン接種後に帯状疱疹を発症したという症例報告がいくつかありました(図1)。これは重要な問題にもかかわらず、これまで系統的な調査は行われていませんでした。今回、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のAjkpandak博士らは、医療費請求データベースに含まれるCOVID-19ワクチン接種者2,039,854人を対象としたコホート研究を行ない、 COVID-19ワクチン接種後の帯状疱疹のリスクは増加しないという結果を得て報告しました(文献1)。今後のCOVID-19ワクチン接種にも影響するのではないかと思われます。


文献1.
Idara Ajkpandak et al., Assessment of Herpes Zoster Risk Among Recipients of COVID-19 Vaccine, JAMA Netw Open. 2022;5(11):e2242240.


【背景・目的】

COVID-19ワクチン接種後の帯状疱疹感染症に関して多数の症例研究で報告されているが、これらの症例が真のリスク増加であるのかは不明である。COVID-19ワクチン接種が帯状疱疹リスクの上昇と関連するかどうかを評価することは重要であり、本研究はこの問題を明らかにすることを目的とする。

【方法】

  • 今回のコホート研究では、自己対照リスク期間(SCRI)*2 デザインを用いて、COVID-19ワクチン接種後30日間または2回目のワクチン接種日までのリスク期間と、COVID-19ワクチン接種から離れたコントロール期間(最終接種日から60~90日目)の帯状疱疹のリスクを比較した。
  • パンデミック以前(2018年1月1日~2019年12月31日)またはパンデミック初期(2020年3月1日~2020年11月30日)にインフルエンザワクチンを接種した過去の2つのコホートにおいても解析を行い、COVID-19ワクチン接種後の帯状疱疹リスクとインフルエンザワクチン接種後の帯状疱疹リスクとを比較した。
  • データは、米国国内の非識別化された請求データベース(Optum Labs Data Warehouse)*3 から入手した。2020年12月11日から2021年6月30日までに、BNT162b2(ファイザー)、mRNA-1273(モデルナ)、Ad26.COV2.S(ジョンソン&ジョンソン)のいずれかのCOVID-19ワクチンを受けた計2,039,854人を対象とした。
  • 主な結果と測定法:International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems第10版(ICD-10)*4 で定義された帯状疱疹様の発症と、診断から5日以内に新規抗ウイルス薬の処方または抗ウイルス薬の増量があったことで帯状疱疹の発症と判断した。

【結果】

研究期間中にCOVID-19ワクチン投与を受けた2,039,854人のうち、平均年齢は43.2歳(SD16.3)、1,031,149人(50.6%)が女性、1,344,318人(65.9%)が白人であった。これらのうち、帯状疱疹と診断された1,451人(平均年齢は51.6歳(SD12.6)、845人(58.2%)は女性)が、SCRI解析に含まれた。SCRI 解析では、COVID-19ワクチン接種による帯状疱疹の調整後リスクは増加していなかった(発生率比,0.91;95% CI,0.82~1.01;P = 0.08)。さらに、COVID-19ワクチン接種は、パンデミック前のインフルエンザワクチン接種と比較して、帯状疱疹のリスクは上昇していなかった。パンデミック初期のインフルエンザワクチン接種との比較でも同様であった。

【結論】

本研究では、COVID-19ワクチン接種と帯状疱疹発症リスク増加との間に関連は見られなかった。これは、患者や臨床医のCOVID-19ワクチンの安全性に対する懸念を払拭するのに役立つだろう。

用語の解説

*1. 帯状疱疹
帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる感染症である。多くの場合、水痘として子どもの頃に発症し1週間程度で治るが、治癒後もウイルスは体内の神経節に潜伏する。その後、加齢やストレス、過労などが原因となってウイルスに対する免疫力が低下すると、神経節に潜伏していたウイルスが再活性化し、神経を伝わり皮膚に到達して、痛みを伴う赤い発疹を生ずる。続いて、中央部がくぼんだ特徴的な水疱(水ぶくれ)が出現するが、皮膚と神経の両方でウイルスが増殖して炎症が起こっているため、皮膚の症状に加えて強い痛みを伴う。
*2. 自己対照リスク期間(SCRI)
イベントが発現した対象自身をコントロールとする自己対照研究デザインの一つ。ケースごとの観察期間中に、対象曝露によるリスク期間を設定し、それ以外の期間をコントロール期間とする。
*3. 非識別化された請求データベース(Optum Labs Data Warehouse)
米国において、特に健康医療分野における個人データの活用において、本人を特定されないようにするための匿名化(非識別化)が必須である。
*4. International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems-10(ICD-10)
世界保健機関憲章に基づき、世界保健機関(WHO)によって作成された疾病、及び、関連保健問題の国際統計分類 (International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems) からなる。異なる国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録、分析、解釈、及び、比較に用いられる。

今回の論文のポイント

  • 本論文の結果から、COVID-19ワクチン接種後において帯状疱疹のリスクは増加しないことが推定されました。ワクチンの副作用に関する懸念が少しでも払拭され、ワクチン接種率の増加に繋がることが期待されます。
  • しかしながら、まだ、わかっていないことも多いことを考慮すれば、ステロイド剤や免疫抑制剤などの治療を受けており、明らかに免疫抑制状態の人やその他の原因により免疫不全状態にあると思われる人は注意した方が良いと考えます。

文献1
Idara Ajkpandak et al., Assessment of Herpes Zoster Risk Among Recipients of COVID-19 Vaccine, JAMA Netw Open. 2022;5(11):e2242240.