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2023/2/1

新型コロナウイルス感染症の重症度と後遺症は必ずしも相関しない!?

文責:橋本 款
図1.

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患すると、しばしば、多彩な後遺症*1に悩まされることになります。これまでの報告によれば、後遺症は、症状の程度にかかわらず、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したしたすべての人に出現する危険性があります。従って、比較的軽い症状にもかかわらず感染力の強いオミクロン株は要注意であり、後遺症に対するより深い理解が必要です。興味深いことに、最近、大阪公立大学の研究グループは、COVID-19の罹患後症状に関し、285例にアンケート調査を実施して、SARS-CoV-2に感染した際の重症度と関係なく、倦怠感や味覚・嗅覚の異常などが、COVID-19回復後1年を経過していても、半数以上の人に罹患後症状が残っていることを見いだしました(図1)。このように、COVID-19の後遺症の持続性はそれぞれの症状に特異的であることから、そのメカニズムを解明することにより、効率的な治療に結びつくことが期待されました。結果は、Scientific Reports誌に掲載されましたので、今回はこの論文(文献1)を取り上げたいと思います。


文献1.
Imoto W, et al., A cross-sectional, multicenter survey of the prevalence and risk factors for Long COVID.,Scientific reports.2022 Dec 27;12(1);22413. pii: 22413.s


【研究目的】

COVID-19に罹患すると、治癒後にさまざまな症状が残ることが、海外から報告されているが、わが国ではCOVID-19の罹患後症状に関する調査があまり進んでいない。本研究の目的は、わが国におけるCOVID-19の罹患後症状の実情を明らかにすることである。

【方法】

COVID-19後遺症の有病率と危険因子に関する横断的な多施設調査を実施した。具体的には、2020年1月1日~同年12月31日の間に、大阪府内の5病院でCOVID-19と診断された人、および、入院した285例に対して、COVID-19感染1年後の後遺症に関するアンケート調査(後ろ向きコホート研究)である。

【結果】

  • COVID-19感染後1年後に罹患後症状を有していた人の割合
    • i) COVID-19感染時は無症候~軽症であった人のうち、1つ以上の罹患後症状を有していた人の割合:52.9%(37/70例)
    • ii) COVID-19感染時は中等症~重症であった人のうち、1つ以上の罹患後症状を有していた人の割合:57.5%(123/214例)
  • 罹患後症状については、比較的軽症の人(無症状~軽症)では、10%以上に倦怠感や抜け毛、集中力・記憶力の異常、睡眠障害が多く残っており、比較的重症の人(中等症~重症)では、10%以上に倦怠感、呼吸困難、味覚障害、抜け毛、集中力の異常、記憶力の異常、睡眠障害、関節の痛み、頭痛が多く残っていた。また、生活に大きな影響を与えている(QOLの低下を伴う)罹患後症状としては、倦怠感、喀痰が多く出ること、呼吸困難感、嗅覚の異常、抜け毛、集中力や記憶力の異常、睡眠障害、関節の痛み、眼の充血、下痢があった。
  • どのような人で罹患後症状が残りやすいかを症状と危険因子(患者の背景・持病・血液検査値)についてロジスティック回帰分析*2を実施したところ、SARS-CoV-2に感染した際の重症度と、喀痰、胸痛、呼吸困難、咽頭痛、下痢などが非常に強く関連していることがわかった。その一方で、SARS-CoV-2に感染した際の重症度と関係なく残る罹患後症状として倦怠感や味覚・嗅覚の異常、抜け毛、睡眠障害があった。

【結論】

本研究により、重症度と関係なく残りやすい罹患後症状があることが明らかとなり、現状では罹患後症状の治療法が確立されていないことを考慮すれば、罹患後症状については今後も引き続き注意する必要がある。

用語の解説

*1. 罹患後症状
COVID-19にかかった後、ほとんどの人は時間経過とともに症状が改善するが、一部の人で長引く症状(罹患後症状、いわゆる後遺症)があることがわかってきた。疲労・倦怠感、関節痛、筋肉痛、咳、喀痰、息切れ、胸痛、脱毛、記憶障害、集中力低下、頭痛、抑うつ、嗅覚・味覚障害、動悸、下痢、腹痛、睡眠障害、筋力低下など多岐に渡る。
*2. ロジスティック回帰分析
ロジスティック回帰分析は、いくつかの要因(説明変数)から「2値の結果(目的変数)」が起こる確率を説明・予測することができる統計手法で、多変量解析の手法の1つである。詳細は成書をご覧ください。

今回の論文のポイント

  • 本論文の結果より、倦怠感、味覚・嗅覚異常など、COVID-19の重症度と関係なく残りやすい罹患後症状があることが推定されます。
  • これまでの研究より、炎症と後遺症の可能性が指摘されていますが、このことが罹患後症状の特異性と関係があるかどうか興味深いと思われます。

文献1
Imoto W, et al., A cross-sectional, multicenter survey of the prevalence and risk factors for Long COVID.,Scientific reports.2022 Dec 27;12(1);22413. pii: 22413.s