細胞死は、主として、「プログラム細胞死/制御された細胞死」であるアポトーシス(apoptosis)、および「事故的細胞死」であるネクローシス(necrosis)の2つのタイプからなりますが、アポトーシス以外にも、ネクロトーシス(necroptosis)*1、フェロトーシス(ferroptosis)*1、パイロトーシス(pyroptosis)*1 など、さまざまな異なるタイプのプログラム細胞死が報告されています(図1)。ウイルス感染への応答にはこれら細胞死の経路の活性化が含まれており、ウイルス毒性や宿主組織への損傷に重要な役割を担うと考えられていますが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染した細胞ではフェロトーシスが起きているのではないかと注目されています(図1)。従って、フェロトーシスを防ぐことが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)効果的な予防法や治療法の開発につながる可能性があります。このような背景で、最近、イタリア・米国の研究グループが、COVID-19の患者さんの重症度に応じて血液中のフェロトーシスの誘導活性が増すことを見出して報告しましたので、今回はその論文(文献1)に焦点を当てたいと思います。
最近、SARS-CoV-2の感染した細胞ではフェロトーシスによる細胞死が起きやすくなると推定されている。この仮説が正しければ、フェロトーシスを防ぐことにより、COVID-19の効果的な予防法や治療法の開発につながる可能性が考えられる。このような重要性にもかかわらず、現時点で、COVID-19とフェロトーシスに関する報告はあまり多くない。本研究では、SARS-CoV-2に感染した患者さんの血清では、フェロトーシスの誘導活性が増しているのではないかと考え、これを証明することを目的にした。
COVID-19による入院患者さん(生存;n=22 男74% 女26%, 62+/-8.4歳)(死亡; n=20 男72% 女28%, 63+/-14歳)から採血し、血清を分離・調整した。それらをヒト内皮細胞HUVECの培養液中に加えて、活性酸素(ROS)*2の生成、脂質過酸化反応(Lipid peroxidation)*3とCOVID-19の重症度(転帰が生存、又は、死亡)との相関性を検討した。
以上をまとめると、COVID-19で入院して死亡した患者さん由来のサンプルは、生存して退院出来た患者さんのそれらに較べて、ヒト内皮細胞を用いたイン・ビトロの系でフェロトーシス誘導能が亢進していることが示された。これらの結果をイン・ビボの系で証明するなど、さらなる研究が必要である。