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2023/6/27

新型コロナウイルス感染症の5類移行;オミクロン株と共存の時代へ

文責:橋本 款
図1.

本年5月8日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が感染症法上の2類相当からインフルエンザと同じ5類に変更され、早1ヶ月半経過しましたが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株の流行は、現在も世界的に続いています(図1)。国内でも、現時点で新規感染者数は、増加傾向にあり、「XBB.1.5」*1 に対する1価ワクチンの接種が今秋に予定されています。今回は、2023年2~3月にオーストラリアで、XBB.1.5系統と共に流行したオミクロン株「XBF」*2系統に関して、東京大学医科学研究所を中心とした研究チームにより、既存のモノクローナル抗体、抗ウィルス薬やBA.4/5株対応2価ワクチン接種者の血漿に対する「XBF」の感受性を解析した結果が、「The Lancet Regional Health - Western Pacific」に発表されましたのでその論文(文献1)を紹介致します。日本でも「XBF」の感染者が報告されました。5類移行に伴う自粛の低下と新たなオミクロン変異株の流行により第9波が到来する可能性が懸念されています。今後、注視する必要があります。


文献1.
Ryuta Uraki et al., Efficacy of Antivirals and mRNA vaccination against an XBF clinical isolate,
The Lancet Regional Health - Western Pacific (2023年5月11日)


【背景・目的】

オーストラリアやニュージーランドでは、2023年2-3月にオミクロン株「XBF」系統の感染例が増えつつあった。しかし、「XBF」系統に対して、承認されている抗体薬や抗ウイルス薬、BA.4/5株対応2価ワクチン接種によって誘導される抗体応答が有効かどうかについては、明らかではなかった。したがって、本研究では、既存のモノクローナル抗体、抗ウィルス薬やBA.4/5株対応2価ワクチンに対する「XBF」の感受性を明らかにすることを研究目的とする。

【方法】

Vero E6-TMPRESS2細胞を使用したSARS-CoV-2の分離培養、中和活性の測定。詳細は東京都健康安全研究センターのweb site(https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/lb_virus/uid_veroe6/)を御覧ください。

【結果】

  • 3種類の抗体薬(ソトロビマブ、カシリビマブ・イムデビマブ混合、チキサゲビマブ・シルガビマブ混合)のXBF系統に対する感染阻害効果(中和活性)は、いずれも著しく低下していたが、ベブテロビマブはXBF系統に対して従来株と同程度の高い中和活性を示した。
  • 国内で承認を受けている4種類の抗ウイルス薬*3(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル、エンシトレルビル)全てがXBF株に対して、従来株に対する抑制効果と同程度の高い増殖抑制効果を示した。
  • 続いてmRNAワクチン被接種者から採取された血漿のXBF株に対する中和活性を調べた。5回目にBA.4/5株対応2価mRNAワクチンを接種した人の血漿の、ほとんどの検体でXBF系統に対する中和活性を有していた。
  • また、同一症例において、5回目のBA.4/5株対応2価mRNAワクチン接種後のXBF系統に対する中和活性はmRNAワクチン4回目接種後のそれに比べて、約3.0倍上昇していた。

【結論】

本研究の結果は、オミクロン株亜型のリスクを評価する上で重要な情報を提供し、さらに、医療現場における適切なCOVID-19治療薬の選択に役立つものと思われる。

用語の解説

*1.「XBB.1.5」
「XBB.1」にSer486Proの変異が加わった新たな亜系統。「XBB.1.5」に関しては、以前に取り扱いました(新たなオミクロン派生型:XBB.1.5は、世界的脅威になるか?〈2023/1/23掲載〉)。
*2.「XBF」
「XBF」は、「BA・5」の派生型と「BA・2」の派生型が合わさって発生した組み換え体と考えられている。SARS-CoV-2を含めRNAウイルスにおいて遺伝子組換え(2種あるいはそれ以上の同種または近縁ウイルス間で、遺伝子の一部が組換わったゲノムを有するウイルスが生成すること)が起こることはよく知られている。異なる系統のウイルスが宿主に同時感染することで生じるが、SARS-CoV-2についても異なる系統間の組換え体と考えられるウイルスが検出される。
*3.抗ウイルス薬
レムデシビル、モルヌピラビルはRNAポリメラーゼ阻害剤で、ニルマトレルビル、エンシトレルビルは3CLプロテアーゼ阻害剤である。

今回の論文のポイント

  • 本研究の結果は、恐らく、スパイク蛋白を標的にしたワクチンよりもRNAポリメラーゼや3CLプロテアーゼを阻害する抗ウイルス薬の方がウイルスによる免疫逃避を避けるのにより有効であることを示唆しています。さらに、異なる作用を持つ抗ウイルス薬が開発されることが望まれます。
  • オミクロン変異株の流行は、引き続き起こり、今後は、オミクロン変異株と共存することになりそうです。現在、いつ第9波が来てもおかしく無い状況であり、COVID-19が5類感染症に引き下げられたからと言って、油断は禁物です。

文献1
Ryuta Uraki et al., Efficacy of Antivirals and mRNA vaccination against an XBF clinical isolate,
The Lancet Regional Health - Western Pacific (2023年5月11日)