新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年12月に中国のウーハンで勃発して以来、SARS-CoV-2のパンデミックは世界中に広がりましたが、mRNAワクチンによる予防が功を奏したお蔭もあり、現在、COVID-19は収束しつつあります。これに関連して、mRNAワクチンの開発に寄与した米国ペンシルベニア大のカタリン・カリコ特任教授とドリュー・ワイスマン教授の2人が2023年のノーベル生理学・医学賞*2 を受賞しました。しかしながら、ノーベル賞が授与されたからと言ってmRNAワクチンに問題はないという保証はありません。実際、mRNAワクチンの接種に伴い、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛などの副反応が、低頻度ながら心筋炎、心膜炎、血栓症など重篤な合併症が観察されて来ました。また、前回(mRNAワクチンの反復接種はSARS-CoV-2の免疫回避を促進する〈2023/10/03掲載〉)述べましたように、頻回のワクチン接種により免疫グロブリンのIgG4が上昇し、免疫寛容*3 状態が引き起こされる結果、SARS-CoV-2の免疫回避*4 が増強したり、自己免疫疾患や癌が促進される可能性が論じられました。これに一致して、最近、SARS-CoV-2に対するmRNAワクチンを接種した後にIgG4-RDを発症(あるいは、再燃)したという症例報告がいくつか発表されていますので、今回は、そのうち日本の内科雑誌;Internal Medicineに掲載された2報(文献1, 2)を紹介致します。
文献1.
Case Reports;IgG4-related Disease Emerging after COVID-19 mRNA Vaccination
Satsuki Aochi et al.,Intern Med 2023, 62:1547-1551.
文献2.
Case Reports;Immunoglobulin G4-related Hepatopathy after COVID-19 Vaccination
Masahiro Kuno et al.,Intern Med 2023, 62:2139-2143.
【文献1: 発症例】
- 78歳女性BNT162b2(ファイザー)2回目接種後、2週間以内に両側の顎下腺の腫脹に気づき来院した。全身症状良好で関節リューマチの既往歴は無かった。
- 血液検査でIgG4値1,100mg/dl:(正常値11-121 mg/dl)、全身のcomputed tomography(CT)で両側性に腫大した顎下腺の所見のみ、18F-fluorodeoxyglucose-positron emission tomography(FDG-PET)で腫大した膵臓の所見が得られ、IgG4-RDの診断を受けた。
- 治療;プレドニソロン30mg/dayで顎下腺の腫脹は速やかに消失し、血清IgG4値は徐々に下降した。4ヶ月後のCT、FDG-PETで顎下腺、膵臓の腫脹は見られなかった。
【文献2: 再燃例】
- 84歳女性80歳の時に肺の多発性結節*5で来院していた。この時はリンパ管の腫脹と顎下腺の腫脹、血液検査でIgG4値上昇(2,540 mg/dl)、さらに口唇生検*6の結果、IgG4/CD138*7比が70%以上のため、IgG4-RDの診断を受けていた。しかしながら、症状は軽度のため、治療しないでフォローアップしていた。
- 84歳時に(今回)、BNT162b2ワクチン1回目接種後1日目から、掻痒感、食欲不振、悪心がして、それらの症状は徐々に悪化したので7日目に入院した。
- 血液検査でIgG値上昇(6,032mg/dl:正常値861-1,747mg/dl)、IgG4値上昇2,934 mg/dl)、肝逸脱酵素高値AST113 U/L(正常値13-30 U/L)、ALT85 U/L(正常値7-23 U/L)、γ-GTP107 U/L(正常値9-32 U/L)。
- 全身のCTで腫大化した肝臓、脾臓、リンパ管、顎下腺(両側性)が見られたが、膵臓の腫大は無かった。
- 肝生検;門脈域はよく区画化され、門脈周囲の炎症は無かった。胆管は正常で、IgG4-RDによる胆管の狭窄や炎症は無かった。免疫染色でIgG4陽性の形質細胞の増加が見られた。類洞の中はリンパ球の軽度増加し、マクロファージが集積しており、壊死があると思われた。肝小葉中心の炎症は無かったので、IgG4-関連自己免疫性肝炎ではなく、IgG4-関連肝障害と診断された。
- 積極的な治療を行わなかったが、自然に寛解し、現在、経過観察中である。