ADは多くの要因により引き起こされますが、最も基本的なものは加齢であり、国ごとの人口当たりの認知症患者数は、高齢化の進展度と相関しています。2017年のOECD(経済協力開発機構)*2の報告によると、超高齢化社会*3である日本のADの有病率(病気を持っている人の割合)は、先進国35ヵ国中2.33%で最も高い数値を示しており、人口1,000人当たりのAD患者数はOECD平均で14.7人に対して、日本はOECD諸国で最多の23.3人です(図1)。2037年にはOECD平均で17.3人、日本は38.4人に増えると予測されており、出来るだけ早く、病態の理解に基づいた根治療法を確立する必要があります。対照的に、ADの有病率が世界で最も低い集団は、南米ボリビアのアマゾン支流に暮らす二つの先住民族ではないかとする研究結果が報告されています(図1)。米南カリフォルニア大学のMargaret Gatz博士らは、採集狩猟生活を主体とする南米ボリビアのアマゾンに住むチマネ族、及び、モテセン族の研究で、これらの民族のADに関するコホート研究を行い、その結果、認知症と判定されたのは、チマネ族では435人中5人〔粗有病率1.2%(95%信頼区間0.4~2.7)〕、モセテン族では169人中1人〔同0.6%(0.0~3.2)〕でした。チマネ族の平均寿命は70歳と言われており、他の多くの先進国より低いので、これらの差が、平均寿命の差によるものなのか、生活習慣など他の原因に由来するのか検討する事により、ADを予防する手段に関する新たな洞察が得られるかもしれません。今回は、Alzheimer's & Dementia誌に掲載されています論文(文献1)を紹介致します。
文献1.
Prevalence of dementia and mild cognitive impairment in indigenous Bolivian forager-horticulturalists
Margaret Gatz et al., Alzheimers Dement 2023 Jan;19(1):44-55.
チマネ族とモセテン族は、今も自給自足で暮らしているアマゾン流域の先住民族であり、これらの先住民族を研究することにより、疾患の進化的な視点から新たな洞察が得られるかも知れない。この論文においては、現代の老年病の主要な疾患の一つであるADの進化的な理解を深めることを目的として、これらの民族におけるADとMCIの有病率を検討した。
これらの先住民族のうち60歳以上の高齢者(n=623)に対して、トレーニングを受けたボリビアの医師と通訳らのチームが、ミニメンタルステート検査(MMSE)*4や文化に関するインタビューなどによって認知機能を評価した。また、頭部CT (computed tomography)を用いた画像検査も行った。
今回の研究は、先住民族(チマネ族、モセテン族)の認知症有病率の低さを示す結果となった。この結果は, 先住民族を研究することを通じて、ADという疾患の理解が深まり、ADを予防する手段に関する新たな洞察が得られる可能性がある。