SARS-CoV-2オミクロン株との共存を余儀なくされるポストコロナの時代においては、SARS-CoV-2に対するブ―スター接種とこれまで同様に季節性インフルエンザウイルスの感染予防のためのワクチン接種の両方が必要になります。先週、お伝えしましたように、両ウイルスに対するワクチンの同時接種に関しては、その有効性・安全性に問題は無いと考えられます(コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種〈2023/10/19掲載〉)。当然、2つのワクチンをほぼ同時に別々に接種するよりも、1つにまとめたものを1回の接種で済ませることが患者さんや医療関係者の負担軽減になり、インフルエンザとコロナ両方のワクチンの接種率の引き上げにつながりますから、両方のウイルスをまとめた1回のワクチン接種に向けて多くの製薬会社による競争が展開されています。例えば、モデルナ社は、死滅化インフルエンザワクチンと同社が開発するSARS-CoV-2に対するmRNAワクチンとの混合ワクチンの初期・中期臨床試験で安全性と効果を確認し、年内にも最終段階の治験を始め2025年の承認取得を目指しています。しかしながら、先々週、お伝えしましたようにSARS-CoV-2に対するmRNAワクチンはIgG4関連疾患を誘発するなど(IgG4関連疾患の危険因子としてのCOVID-19 mRNAワクチン〈2023/10/12掲載〉)今後も予期しないデメリットが出てくる可能性を考慮すると、現時点で治療戦略は多いに越したことはありません。この様な考え方に一致して、最近、米ノースカロライナ州立大学のZhenzhen Wan博士らは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質を不活化インフルエンザウイルスに接合することにより(図1)、SARS-CoV-2に対するブースターとインフルエンザ予防のダブル効果を持つワクチンの開発の可能性をScience Advances誌に報告しましたので、今回はその論文(文献1)を紹介致します。
文献1.
A SARS-CoV-2 and influenza double hit vaccine based on RBD-conjugated inactivated influenza A virus
Zhenzhen Wang et al.,Science Advances, 23 Jun 2023, Vol 9, Issue 25
SARS-CoV-2とインフルエンザウイルスに同時期に感染すると、単独の感染の場合に比べて重篤になり、致死率が高くなるのではないか懸念される。したがって、ワクチン接種による両方のウイルスの予防は重要であると思われる。この様な背景で、本研究は、SARS-CoV-2ブースターとインフルエンザ予防のダブル効果を持つワクチンの開発を目的にした。
SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメインを不活化インフルエンザウイルスに接合することにより、SARS-CoV-2 様の不活化インフルエンザウイルスを作成し、これをハムスターに接種することにより、SARS-CoV-2のブースターとインフルエンザ予防のダブル効果を持つワクチン(Flu-RBD)の可能性を解析した(図1)。
本研究結果より、ダブルヒットワクチンは、SARS-CoV-2、及び、インフルエンザウイルスワクチンの同時接種に使用するダブルヒットワクチンを作成するために有用である。