早いもので、WHOが新型コロナ感染症(COVID-19) パンデミックの終結宣言を出して1年近く経過しました。この間、オミクロンの新しい変異株がいくつか登場しましたが、大事には至りませんでした。しかしながら、まだ、COVID-19の罹患後症状、いわゆる、後遺症(Long COVID)の問題は解決した訳ではありません。Long COVIDの症状は多岐に渡りますが(軽症の新型コロナウイルス感染症であれば、後遺症は1年以内に消失する!?〈2023/4/13掲載〉)、その中でも、認知障害Brain fogは、COVID-19に罹患した人に高率に(20〜30%)に発症し、将来的に認知症に進む可能性も懸念されることから、病態のメカニズムを解明し、それに基づいた治療を確立することが必要です。最近、アイルランドのトリニティ・カレッジ・ダブリン大学セントジェームス病院のChris Greene博士らは、COVID-19に罹患後の患者さんに対して、ダイナミック造影磁気共鳴画像法*1や末梢血のトランスクリプトーム解析*2を行ない、Brain fogの症状の有無で比較したところ、Brain fogを呈した患者さんにおいては全身性炎症反応が遷延し、血液脳関門(BBB)*3が崩壊していることを見出しました。その結果が、最近のNat. Neurosci.に掲載されましたので(文献1)、今回は、その論文を紹介いたします。以前に、新型コロナウイルスが、アミロイドβ (Aβ)の凝集を促進すること(スパイク蛋白質はアミロイドを形成する!〈2022/9/20掲載〉)、アルツハイマー病では、血管内皮細胞によるBBBの制御がAβの低分子凝集物であるoligomersやprotofibrilsにより阻害されることを報告しましたが、(アルツハイマー病態における血管内皮細胞の重要性〈2024/4/10掲載〉)これらを合わせて考えますと、AβのprotofibrilsがCOVID-19のBrain fogに関与しているというのは魅力的な仮説です(図1)。
文献1.
Blood–brain barrier disruption and sustained systemic inflammation in individuals with long COVID-associated cognitive impairment, Chris Greene, et al., Nat. Neurosci. volume 27, pages 421–432 (2024)
COVID-19の病態において、血管内皮障害や凝固障害といった微小循環障害 を伴うことがよく知られているが、Brain fogにBBBの異常が関与しているかどうかは十分に検討されていない。したがって、本プロジェクトにおいては、この問題について理解を深めることを目的とした。
以上の結果より、BBBの崩壊と遷延する全身性炎症反応が、COVID患者に見られるBrain fogの特徴の鍵になると推定された。