ADは 原因遺伝子*4(Presenilin1/2: PS1/2,Amyloid Precursor Protein: APP)のミスセンス変異によりアミロイドβの産生・分泌が亢進することで早期に常染色体優性遺伝として発症する家族性(Early-onset AD:EOAD)と、高齢期にとして発症する孤発性(late-onset AD: LOAD)の2つのタイプからなります。LOADに関しては、これまでAPOE遺伝子のE4対立遺伝子が感受性遺伝子*4である他はほとんど知られていませんでしたが、近年のゲノムワイド関連解析(genome-wide association studies: GWAS)*5により、 LOADの関連遺伝子がいくつか同定されました(図1)。それらの中でもthe triggering receptor expressed on myeloid cells 2 (TREM2)は、特に注目されています。TREM2は、膜貫通型の糖蛋白質で、細胞外に免疫グロブリン様のドメインを有し、脳では、ミクログリアに発現しています。興味深いことに、TREM2の変異は、まれな、劣性遺伝病である那須ハコラ病の原因と見なされています。那須ハコラ病は、TREM2遺伝子に機能喪失変異を有する患者が、この病気の特徴である多発性骨嚢胞による病的骨折と白質脳症による若年性認知症を示すことが知られています。また、TERM2遺伝子の点変異(ヘテロ接合体)によりLOADにおいてTERM2の機能喪失がこれらの疾患の神経炎症促進に関与する可能性があると推定されました。このように、TREM2が高齢期に有益な作用を持つのは、おそらく、発達期・生殖期に進化的に有利な作用を持つからだと推定されます。このような状況で、イタリア・ミラノにありますIRCCS Humanitas Research HospitalのErica Tagliatti博士らは、マウスにおいて、TREM2が発達期・生殖期における海馬CA1領域にある錐体細胞*6の生体エネルギー機構の制御に重要な役割を担うことを観察しました。これらの結果は、最近、Immunity (Cell Press)に掲載されましたので(文献1)、今回はその論文を紹介いたします。
文献1.
Trem2 expression in microglia is required to maintain normal neuronal bioenergetics during development. Tagliatti et al., 2024, Immunity 57, 86-105. January 9, 202
TREM2は、脳では、ミクログリアに発現する、骨髄系細胞特異的な遺伝子であるが、その点変異体のいくつかは、ADを含む神経変性疾患に関連している。TREM2はミクログリアによるシナプスの調整に本質的な役割を果たしているが、TREM2が神経系の発達期にどのように貢献しているのかは不明であり、これを理解することを本研究の目的とした。
この目的のために、TREM2ノックアウトマウスを作成し、新生児期(P1)のマウスの海馬神経の代謝機能を解析した。
以上の結果より、TREM2は領域特異的に神経の代謝の状態を規制することにより、神経の発達を制御する役割をしていると考えられた。