他の多くの慢性疾患と同様に、ADにおいても、早期治療の重要性が言われてきましたが、昨年よりお伝えしておりますように、抗Aβモノクローナル抗体を用いた免疫療法の臨床治験におけるポジティブな結果により(早期アルツハイマー病に対するLecanemab(レカネマブ)の治療効果〈2023/5/10掲載〉、Donanemab(ドナネマブ); 早期アルツハイマー病の第III相臨床試験に成功〈2023/5/30掲載〉)、ADの初期、すなわち、MCIの時期に治療介入することが重要であると再認識されました(図1)。しかしながら、MCIは臨床経過に基づいた概念であり、これまで、主として、臨床的な見地より研究されてきました。MCIにおけるAβの凝集に関して理解することは重要です。このような状況で、デンマークAarhus 大学のKristian Juul-Madsen博士らは、MCI患者さんにおける脳のイメージングや抹消血液中の単球の解析、イン・ビトロではIPS細胞由来のミクログリアの解析、さらに、流体力学計算による理論的解析を加えて総合的にアプローチすることにより、MCIにおけるAβの凝集に抹消循環系の炎症、特に、補体受容体*3を通した単球との相互作用が重要であることを見出しました。この結果は、最近、Nature Communications誌に報告されましたので(文献1)、今回は、この論文を取り上げます。これらの知見が、MCIに焦点を当てたADの早期治療の発展に役立つことが期待されます。
文献1.
Amyloid-β aggregates activate peripheral monocytes in mild cognitive impairment., Kristian, Juul-Madsen et al., Nature Communications volume 15, Article number: 1224 (2024)
最近の研究はADの初期、すなわち、prodromal AD*4の時期における治療介入の重要性を示唆している(図1)。また、末梢循環系の炎症が神経変性疾患の進行に関与しているという報告が蓄積している。したがって、MCIにおけるAβの凝集と末梢循環系の炎症の相互作用の病理学的な役割を明らかにすることが本論文における研究目的である。
この目的のため、MCI患者さん(n=38)脳のイメージング (11C-PiB PET、及び、18F-FTP PET*5)、抹消血液中の単球の解析、イン・ビトロではIPS細胞由来のミクログリアの解析、さらに、流体力学計算による理論的解析を加えた総合的なアプローチを行った。