近年、早期診断・早期治療の進歩により、がんの生存率は著しく進歩し、がんはもはや不治の病ではなく、がんと共存する時代になったと言われます。その反面、乳がん、膵臓がんなど、多くのがんは、高率に再発し、不幸な転帰を余儀なくされることもまた事実です。これを克服するためには、再発のメカニズムに基づいた治療法を開発する必要がありますが、まだ、十分に理解するレベルまで到達していません。そこで、根治手術する前後に再発を防ぐ目的で化学療法やホルモン療法などが手術の補助療法として行われます(図1)。胃がんは、病理検査(生検)により確定診断が行われると、内視鏡検査や腹部CT検査、腹部超音波検査などで総合的に評価することにより、がんの進み具合を「Ⅰ期(ⅠA、ⅠB)、Ⅱ期(ⅡA、ⅡB)、Ⅲ期(ⅢA、ⅢB、ⅢC)、Ⅳ期の8段階病期(ステージ)」に分類します。転移を疑わない場合(ⅠA期)には縮小手術が行われます。がんが固有筋層あるいはそれ以上の深部に達している場合は、検査でリンパ節転移がないと診断されても、転移している可能性が高率に見込まれるため、一定範囲のリンパ節を切除する定型手術を行い、補助療法を併用します。しかしながら、現時点で、胃がんのⅠB期においては、術後補助療法としての化学療法の効果が証明されてはいません。このような状況で、中国第四軍医大学のXianchun Gao博士らは、ステージIB 胃がんの術後補充療法としての化学療法の効果の有無を知るために、多施設共同観察コホート研究により解析した結果、19-9が上昇したサブグループやリンパ血管浸潤陽性やリンパ節陽性のサブグループにおいて、術後化学療法の効果が有意になることを見出しました(文献1)。これらの知見が、胃がんの術後補充療法の発展に役立つことが期待されます。
文献1.
Association of survival with adjuvant chemotherapy in patients with stage IB gastric cancer: a multicentre, observational, cohort study, Xianchun Gao et al., Lancet Reg Health West Pac , 2024:45:101031.
ステージIB 胃がんの再発は、珍しいことではないが、術後補充療法としての化学療法の効果に関しては異論がある。したがって、本論文は、多施設共同観察コホート研究によるメタ解析の結果より、この問題を明らかにすることを研究目的とする。
この目的のため、2009~2018年に中国の8ヶ所の病院に入院して治療を継続したステージIB(TNM分類*5;T1N1M0 又は、T2N0M0)の胃がんの患者さん2110人のデータを解析し、 PSMを行うことにより、術後化学療法を受けた人と術後経過観察だけの人の生存を比較した。それに基づいて、術後化学療法による生存の延長を推定する2つの生存予測モデルが作られた。