がん治療は外科手術、抗がん剤(化学療法)、ホルモン療法、放射線照射、分子標的治療*5、免疫療法など、多くの治療が実施されて来ましたが、現状では、決して満足のいくものでなく、さらに効果的な治療法の開発が望まれています。近年、分子シャペロンの一種であるヒートショックプロテイン90(Hsp90)がん細胞および腫瘍組織に多く発現し、活性の高い状態で存在し、Hsp90のクライアントタンパク質には細胞周期・細胞死や細胞の生存・癌化に関わる機能タンパク質が多く含まれることから、がんの生存・維持に重要であると考えられています。Hsp90阻害によってこれらクライアントタンパク質の機能を阻害することによって種々のがん細胞に対して抗腫瘍活性を示すことから、Hsp90阻害薬の臨床応用はGeldanamycin 誘導体で先行して実施されてきましたが、それらとは全く異なる骨格を持つ新規Hsp90阻害薬の開発も進んでいます。Hsp90阻害薬によるがん治療の戦略として興味深いのは、他の治療法との併用です。これに関連して、カナダAlberta大学のMadison Wickenberg博士らは、Hsp90阻害剤をがん細胞の培養中へ添加すると、細胞膜上のMHCクラスI分子(MHC1)、インターフェロンγ受容体 (IFNGR)、プログラム細胞死リガンド1 (PD-L1)などの所謂、免疫受容体の発現が増加することから、Hsp90阻害剤がチェックポイント阻害剤などの免疫療法と組み合わせれば治療効果が増強される可能性があると提唱しました(図1)。この結果は、最近、Front. Mol. Biosci. 誌に報告されましたので(文献1)、今回は、この論文を取り上げます。Hsp90阻害剤と免疫チェックポイント阻害薬の併用に焦点を当てたこれらの知見が、がん治療の発展に役立つかも知れません。
文献1.
Hsp90 inhibition leads to an increase in surface expression of multiple immunological receptors in cancer cells, Madison Wickenberg et al., Front. Mol. Biosci. , 2024, 11. 1334876
興味深いことにHsp90阻害は、細胞膜上のMHCの発現を増加させる。もし、Hsp90阻害剤がIFNGRなど、他の免疫受容体の発現も増加させるなら、チェックポイント阻害剤などの免疫療法による治療を増強させる可能性がある。このような仮説を明らかにすることが本論文における研究目的である。
これらの結果より、Hsp90阻害剤がチェックポイント阻害剤などの免疫療法による治療を増強させる可能性があると考えられた。