AdipoQは、脂肪細胞から分泌される分子量約30kDのアディポサイトカインで、血中濃度は一般的なホルモンに比べて桁違いに高く、μg/mlオーダーに達します。AdipoQはインシュリン感受性促進作用(インスリン抵抗性改善作用、抗動脈硬化作用)、抗炎症作用を有し、 さらに、肥満、糖尿病、高血圧、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病で、しばしば血中の濃度が低下することから、AdipoQ産生を高めることは生活習慣病や循環器疾患の予防・治療に有益であると考えられました。しかしながら、これとは対照的に腎不全や心不全で血中AdipoQ濃度が高いほど予後がよくないという、所謂、AdipoQ・パラドックスが報告されました。引き続き、慢性閉塞性肺疾患*4、がん、アルツハイマー病などのさまざまな疾患においてもAdipoQ・パラドックスが観察され、AdipoQ・パラドックスは老年期の慢性疾患における共通の病態メカニズムではないかと考えられました(図1)。このような状況で、デンマーク・コペンハーゲン大学病院 のArnold Matovu Dungu博士らは、前向きコホート研究の結果、市中肺炎の重症化(死亡、または、再入院)においても、AdipoQ・パラドックスが関与していることを見出しました。この結果は、Front. Med. 誌に掲載されましたので(文献1)、今回は、この論文を報告いたします。現時点において、老年期の慢性疾患に対する治療法は確立されてはいませんが、AdipoQ・パラドックスはこれらの疾患に共通する治療標的になる可能性があります。
文献1.
Adiponectin as a predictor of mortality and readmission in patients with community-acquired pneumonia: a prospective cohort study, Arnold Matovu Dungu et al., Front. Med., 02 April 2024
市中肺炎後の死亡率は低体重(BMI)と相関する。肥満では、血中AdipoQ値が低下することから、市中肺炎後の患者さんでは、血中AdipoQ値が高いと死亡率が高くなるのではないかと予測した。この仮説を明らかにすることを本論文における研究目的とした。
市中肺炎で入院した患者さんを対象にした前向きコホート研究を行った。血中AdipoQ値は入院時に測定し、臨床的な結末とAdipoQ値の相関関係をロジスティック回帰分析*5により年齢、性差、肥満度(BMI及び、胴囲、体脂肪率)で調節して評価した。
AdipoQ値は90日までの死亡率と再入院率に正の相関関係が見られたが、死亡率は低体重に依存し、再入院率は、肥満度とは無関係であると考えられた。