ADにおける精神病症状は、ある程度認知機能障害が進行した後に出現し、認知機能障害の周辺症状*3として一般的に考えられています(図1)。対照的に、SCZなど精神病の患者さんは加齢とともに記憶障害が顕著になりますが、そのメカニズムは不明です。老齢期の現象であり、ADなどの認知症に罹患する時期と重なるため、恐らく、神経変性のメカニズムと重複しているのではないかと考えられます。また、これまで、いくつかの論文において、SCZ 脳の組織学的解析においてADの病理所見が認められましたが、その一方で、有意差が示されなかったという報告も見られます。ADの頻度は桁違いに高いので、SCZ病理との因果関係の有無に関わらず、ADと合併する可能性があるからです。したがって、これまでの報告でこの問題に対する明確な結論は出ておらず、治療方針を立てることは出来ません。この様な状況で、英国・ロンドン大学のJack Christopher Wilson博士らは、SCZの剖検脳の病理解析に関するシステマティックレビュー・メタ解析を行い、その結果、SCZの剖検脳は、コントロールの剖検脳と比べて、アミロイドの病理に関する有意差は見られないと結論づけ、SCZの記憶障害は、老化に伴う認知予備能(Cognitive reserve)の低下の可能性があるのではないかと推定しました。しかしながら、アミロイド以外のADの病理メカニズムが重要である可能性も残されており、現時点では、SCZとADの病理メカニズムは完全に異なるとは断定できず、慎重に進めていく必要があります。この結果は、BMJ Ment Health誌に掲載されましたので(文献1)、今回はそれを紹介いたします。
文献1.
Biomarkers of neurodegeneration in schizophrenia: systematic review and meta-analysis, Jack Christopher Wilson et al., BMJ Ment Health 2024 May 24;27(1):e301017.
SCZの患者さんは加齢とともに記憶障害が顕著になる。そのメカニズムは不明であるが、一つは、ADの神経変性と重複している可能性が考えられる。あるいは、SCZの記憶障害は、老化に伴う認知予備能の低下が関与する可能性が考えられる。本プロジェクトでは、SCZの剖検脳の病理解析に関するシステマティックレビュー・メタ解析によりこれを明らかにすることを研究目的とした。
本研究における剖検脳のメタ解析の結果、SCZは、コントロール群と比べて、アミロイドの病理に関する有意差は見られないと考えられた。したがって、SCZの患者さんにおける記憶障害はADが原因では無く、AD以外の原因、例えば、老化に伴う認知予備能の低下の可能性があるのではないかと推定した。