以前にお伝えしましたように、抗アミロイドβmAbによる免疫療法がアルツハイマー病(AD)の第III相臨床試験において成功したことから(早期アルツハイマー病に対するLecanemab(レカネマブ)の治療効果〈2023/5/10掲載〉、Donanemab(ドナネマブ); 早期アルツハイマー病の第III相臨床試験に成功〈2023/5/30掲載〉)、ADの治療研究は、今後、免疫療法に関連するものが、より重要になっていくと思われます。しかしながら、ADにおいて蓄積するアミロイドβが細胞外に放出される分泌蛋白であるのに対して、多くの神経変疾患で蓄積するアミロイド蛋白質は細胞内蛋白で、主として、細胞質や核に蓄積しますので、抗体は細胞膜を通過する必要があり、そのため治療効率は高くならないと予想されます。実際、PDにおいて、抗αSmAbを用いた受動免疫による治験が行われていますが(図1)、現時点において、満足のいく結果は得られていません。そのうちの一つであるPASADENA第II相臨床試験において、スイス・ロシュイノベーションセンターのGennaro Pagano博士と共同研究者らは、病初期のPD患者さんに対してプラシネズマブによる免疫療法による治験を行いましたが(図1)、PDの進行に対して有意な抑制効果を観察できませんでした。ただし、この治験の被験者は、PDの進行という点から見ると非常に多様であったことから、今回、著者らは、この治験をさらに1年間延長し、事前に判定した運動症状の進行具合に応じて患者さんを亜集団4つに分けて、プラシネズマブが 運動症状の進行に影響を解析しました。その結果、プラシネズマブが、急激に進行するタイプのPD患者さんの運動機能低下を軽減することが、大規模な第II相臨床試験で得られたデータの予備解析によって明らかになり、これまで得られて来たPDの臨床試験のネガティブ・データに再考の余地があることがわかりました。この結果は、Nature Medicine誌(文献1)に掲載されましたので、今回はその論文を紹介いたします。
文献1.
Prasinezumab slows motor progression in rapidly progressing early-stage Parkinson’s disease, Gennaro Pagano et al., Nature Medicine, volume 30, pages 1096–1103 (2024)
最近のPASADENA第2相臨床試験において、初期段階のPD患者さん316人に対してプラシネズマブが投与されたが、このコホート研究ではPDの運動症状を定量的に判断する標準的な臨床評価基準である運動疾患障害学会の統一パーキンソン病評価尺度(MDS-UPDRS)*2による評価スケールで、病気の進行を遅らせるような効果は見られなかった。しかしながら、この臨床試験の被験者は、病気の進行という点では非常に多様であった。そこで、本プロジェクトにおいては、プラシネズマブがPDの症状の亜型に応じて異なる可能性を明らかにすることを研究目的とした。
今回、PASADENA第2相臨床試験において、事前に判定した運動症状の進行具合に応じて患者さんを亜集団に分類し、引続き、1年間に渡り、プラシネズマブが運動症状の進行に与える影響を解析した。この症状の進行度は、ベースライン時のモノアミン酸化酵素B阻害剤*3の使用、ホーン・ヤールの重症度分類*4、レム睡眠行動障害の存在、運動症状のサブ表現型(無動–筋強剛型と振戦優位型)などによって判定した。