新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが終わってやれやれと言う感じですが、それも束の間、世界の関心は、すでに、新しいウイルス感染症であるMpox(サル痘)に移っています。Mpoxは、Mpoxウイルスによる感染症であり、発熱、発疹、リンパ節腫脹や筋肉痛などの症状を伴います。呼吸器症状が少ないため、COVID-19の様にパンデミックを起こす可能性は少ないと思われますが、小児例や、接触の程度、患者さんの健康状態、合併症などにより重症化することがあり、要注意です。以前にMpox感染症は、西アフリカを中心に流行し(クレードIIb)(図1)、2022年5月以降、欧州や米国等で市中感染の拡大が確認されたため、WHOは第1回目の「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言しました。その後、一旦、終息して、2023年5月にPHEICの終了宣言が出されたのですが、2024年に入り、コンゴ民主共和国および周辺の国でMpox患者が再度、急増し(クレードIb)(図1)、2024年8月に第2回目のPHEICが宣言されました。今後どうなるかは計り知れない状況が続いています。Mpoxウイルス感染症に対するオリジナル研究に関する論文が出て来るまでしばらく時間がかかると予想されますので、今回は、北京・中国科学院のLiang Wang博士と杭州・浙江大学のGeorge F Gao博士の共著によるLancet のEditorial論文(文献1)を要約して報告いたします。
文献1.
More mpox data are needed to better respond to the public health emergency of international concern, Wang L and Gao GF, Lancet 2024; 404:1399-1400
2024年8月14日、WHOはMpox (以前はサル痘として知られていた)を国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)として2度目の宣言をした。21世紀になって、2度の宣言をするのは、エボラ出血熱#1以来である。遺伝子の多様性に基づけば、従来のMpoxウイルスはI, IIa, IIbの大きなクレードに分類される。今回のPHEICは、新しく出現したIbによるものであると思われる(2022-2023の間に最初のPHEICの原因になったIIbとは異なる)。これまでに確認されたものの大部分はアフリカであり、特に、コンゴ民主共和国に多いが、スウェーデンやタイからも見つかったことから、世界中に広がっているかも知れない。一般にクレードIは IIに較べて、臨床的により重症化し、致死率が高い(10.6%)ので、IbはIIbよりも公衆衛生上ハイリスクであると言えるだろう。
新しい変異株による疾病管理と封じ込めに最初の100日間が極めて重要である事を考慮すれば、疫学に関するデータが早く公表されれば、リアルタイムで疫学的評価を行うことが可能になり、予防やコントロールの策定制御を行い、PHEICを早く終わらせることが出来るだろう。これらの空白を無くさなければ、まだ、同定されていない隠れた変異株を伝染させ、新しい変異株として出現させる事になり、Mpoxの蔓延を防ぐ努力を複雑なものにする。アフリカには、大規模感染とゲノム監視に対する資金やインフラが限られていることを考慮すれば、多方面からの国際的な援助が必要である。さらに、データ分与の実現性に関する合理化政策が可能な限り優先されるべきである。