近年、神経変性疾患の治療に関連した研究が精力的に行われています。現在の標準的な考え方は、アルツハイマー病(AD)などの認知症が既に進行した場合は、根本的に治療するのは困難ですが、病初期、出来れば、症状が出る以前なら、抗Aβモノクロ-ナル抗体を用いた受動免疫療法などで治療介入を始める事により、発症を有意に遅らせることが可能であるというものです。その意味で、認知症の前段階とされるMCIに連なる病態メカニズムを理解し、認知症の予防治療に応用することが非常に重要です。最近、MCIにおける認知フレイル*3の役割が注目されています。特に、認知機能低下の自覚と歩行傷害を特徴としたMCRという新しい前認知症症候群の概念が各国で受け入れられるようになりました(図1)。その一方で、以前より、認知症・MCIの原因の一つとして、睡眠障害*4の役割が示されてきました(図1)。したがって、MCRと睡眠障害の関係は興味深いと思われますが、現時点においてこれに関する報告はありません。このような状況で、米国・Albert Einstein大学のVictoire Leroy研究員らは、高齢者445症例からなる前向きコホート研究を行い、その結果、睡眠障害がMCRの発症率と相関することを観察しました。これによって、認知症が進行する課程で、認知フレイルの関与が明らかになったことから、非常に意義深いと思われます。この結果は、最近のNeurologyに掲載されましたので、今回は、その論文を紹介いたします(文献1)。これらの知見が認知症の予防に応用されることが期待されます。
文献1.
Association of sleep disturbances with prevalent and incident motoric cognitive risk syndrome in community-residing older adults, Victoire Leroy et al, Neurology 103 (11) 2024
最近、睡眠障害やMCRが認知機能障害のリスクになるという証拠が増加しているが、睡眠障害とMCRの関係は不明である。したがって、本研究は、睡眠障害と高齢者におけるMCR(全般、及び、発症率、有病率)の相関性の有無を調べることを目的とした。
概して、睡眠の質の低さは、MCRの発症率と相関するが、MCRの有病率とは相関しなかった。特に、睡眠障害による昼間の不調は、MCR発症のリスクが増加する。これらの関係を検証するためのさらなる研究が必要である。