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2024/12/19

相分離生物学から見たα-/β -シヌクレインの相互作用

文責:橋本 款

今回の論文のポイント

  • 液–液相分離(LLPS)#1は種々の生命現象の制御に関与するが、パーキンソン病(PD)においても、α-シヌクレイン(αS)が、LLPS/液–固相分離(LSPS)*1を経て、成熟したアミロイドになるモデルが考えられている。
  • 本プロジェクトにおいては、α-/βSの相互作用に焦点を当てて、このモデルを細胞レベル・固体レベル(線虫)で解析した。
  • その結果、培養細胞、線虫のいずれの系においても、αSによるLLPSは、野生型のβS共存により抑制されたが、変異型βS(V70M, P123H)*2の共存下では促進した。
  • α-/βSの相互作用部位をAlphaFold2による合理的設計*3により作成したβSのペプチド(33-48 残基)で培養細胞を処理すると、αSによるLLPSは抑制され、αS を発現した線虫(NL5901)に投与すると、運動機能が回復し、寿命が延長した。
  • これらの結果は、相分離生物学の視点から見て、α-/βSの相互作用が通常の状態と病的状態(PD, DLBなど)との間の根底にあり、治療にも重要である可能性が考えられた。
図1.

近年、タンパク質やRNAが示すLLPSが種々の生命現象の制御に関与することがわかってきました。これは、濃度の異なる2種類の水溶液が水と油のように分離する現象ですが、細胞内でLLPSにより形成された液滴(ドロプレット)*4(直径約2~5 µmと多彩である)は、膜で覆われていないことから「膜のないオルガネラ」、液滴内には特定の分子が凝縮することから「凝縮体」、とも呼ばれようになりました。特に凝集性が高く、神経変性疾患に関わるようなタンパク質はLLPSを起こしやすく、さらに、LSPSを経て、不可逆的に凝集形成へと移行しうることが示されてきました(図1)。これらの相分離は細胞内環境の変化や遺伝子変異によって促進されます。例えば、PDにおいては、αSのミスフォールディングが、LLPS/ LSPSを経て、アミロイドへと成長するというモデルが提唱されています(Ray S. et al., Nat. Chem. 2020)。これらは、イン・ビトロ(試験管内)の結果に基づいたものであり、生理学的な条件下で証明することが重要です。さらに、これまで、この分野で得られてきた知見は、LLPS/LSPSなどの概念が組み込まれていませんから、再検討する必要があります。このような考えで、中国・華中科技大学(Huazhong University of Science and Technology)のXi Li博士らは、α-/βSの挙動を細胞レベル・固体レベル(線虫)で解析したところ、αSによるLLPS/LSPSの促進効果がβSにより、抑制されることを観察しました。これらの結果は、相分離生物学からの視点からもこれまでの考え方に一致して、α-/βSの相互作用の生理学的重要性を示唆するものでした。したがって、病理学的にも、治療研究に応用出来ることが期待されます。今回は、Nature Communicationsに掲載された論文を紹介いたします(文献1)。


文献1.
β-synuclein regulates the phase transitions and amyloid conversion of α-synuclein, Xi Li, et al, Nature Communications, volume 15, Article number: 8748 (2024)


【背景・目的】

PDやDLBなどα-シヌクレイのパチーの病理学的特徴は、αSの凝集体の蓄積であるが、最近の報告は、αSが、LLPS/ LSPSを経てアミロイドへと成長するモデルが提唱されている。本プロジェクトの目的は、これが、細胞・個体レベルでどのように制御されているのかをα-/βSの相互作用に焦点を置いて明らかにすることである。

【方法・結果】

  • 蛍光標識したα- 及び/又は、βSを発現する培養細胞において、共焦点蛍光顕微鏡で観察・定量化したところ、αSによるLLPSは、野生型のβS共存により抑制されたが、変異型(V70M, P123H)のβS共存下では促進した。
  • αS を発現させたNL5901 C. elegance(線虫)は、αSによるLLPSとともに、寿命(生存率)が短縮し、運動機能が低下(Thrashing assay*5による評価)しているが、これらのαSによる毒性は、野生型のβS共存により軽減したが、変異型(V70M, P123H)のβS共存下では、このような効果は見られなかった。
  • AlphaFold 2 Colabにより、α- 及び、βSは特定の部位で相互作用すると推定された。この部位に相当するβSのアミノ酸配列(33-48 残基)より作成したペプチドで培養細胞を処理するとαSによるLLPSは抑制され、NL5901 線虫に投与すると、運動機能が回復し、寿命が延長することが観察された。

【結果】

  • 参加者は445名で、女性が56.9%、平均年齢75.9歳であった。403名は、ベースラインでMCRが無かったが、2.9年のフォロ-アップのうち36名はMCRを発症した。
  • 質の低い睡眠の症例は、良質な睡眠の症例に比べて、MCR発症のリスクが高かったが、この関連性は鬱症状を調整した場合、有意差は無くなった。
  • ピッツバーグ睡眠質問表のうち、睡眠障害に関係した昼間の不調(e.g. 日中の睡魔亢進、熱意低下)はMCR発症のリスクを伴った。
  • MCRの有病率は、質の低い睡眠と相関しなかった。

【結論】

以上の結果を総合すると、相分離生物学の視点から見て、α-/βSの相互作用のバランスが通常の状態とPD/レビー小体型認知症(DLB)の病的状態との間の根底にあり、治療戦略にも重要である可能性が考えられた。

用語の解説

*1.液–液相分離(LLPS: Liquid-liquid phase separation)、液–固相分離(LSPS: Liquid-solid phase separation)
近年、生命現象を解き明かす新たな研究として、細胞内で生じるLLPSが注目を浴びている。LLPS は細胞内で RNA やタンパク質などの高分子が局所的に集まり、水と油のように細胞質から分離して液滴を形成する現象である。それは核小体に代表されるような、生体膜を持っていない (膜で区切られていない) 固有の働きをもつ集合体であり、オルガネラのように様々な生理現象を担う場となっている。ほぼすべての細胞内現象で LLPS が関与しているとも言われており、神経変性疾患に関わる研究も盛んに行われている。例えば、細胞内でのタンパク質凝集が病因となる疾患のうち、PDや前頭側頭葉変性症、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症においては、それらの原因タンパク質である αS、FUS、タウ、TDP-43 が集合体を形成することにより、凝集体形成が促進される。LLPS は生体現象を解明するための新たな糸口であり、神経変性疾患と LLPS の関与を明らかにすることで病態の理解、新規治療法の開発に繋がることが期待されている。LLPSに続いて、アミロイドフィブリルが形成されるが、それをLSPSと言うことがある。
*2.変異型β S(V70M, P123H)
2つのミスセンス変異β S(V70M, P123H)が、それぞれ、孤発性、家族性DLBで同定された (Ohtake H. et al., Neurology 2004)。
*3.AlphaFold2による合理的設計(Rational design)
AlphaFold2は、アミノ酸配列からタンパク質の立体構造を予測するソフトウェアである。2020年11月にDeepMind社から発表され、AIを使ってアミノ酸配列からその立体構造を高い精度で予測できることを示し、衝撃を与えた。
合理的設計とは、化学生物学や生体分子工学の分野において、物理モデルを用いて分子の構造がどのように作用するかを予測し、特定の機能を備えた新しい分子を作り出す戦略を総称する用語である。
*4.ドロプレット(Droplet)
ドロプレットとは、タンパク質や RNA などの有機物が液-液相分離して形成した集合体のことをいう。液滴やヒドロゲルなどと呼ばれることもある。ドロプレットは流動性があり、タンパク質や水分子などのドロプレットの構成成分は内外に行き来できる。タンパク質の凝集体は不可逆に形成されるが、ドロプレットはイオン強度や pH、温度などの変化によって可逆に形成したり溶解したりするのが特徴である。
*5.スラッシング アッセイ(Thrashing assay)
線虫の運動性を評価するための敏感なアッセイ。固体表面でクロールを測定する最適化された放射状移動アッセイと、液体中の水泳を追跡および分析するための自動化された方法の2つがよく用いられる。

文献1
β-synuclein regulates the phase transitions and amyloid conversion of α-synuclein, Xi Li, et al, Nature Communications, volume 15, Article number: 8748 (2024)