早老症は、老化に似た症状が実際の年齢よりも若いときから見られる病気です。狭義かつ特徴的な早老症として、ウェルナー症候群 (WS、Werner Syndrome) *3などいくつかの遺伝子異常によるものがよく知られています(図1)。早老症の治療は、現在、対処療法しかありませんので、病態メカニズムを理解し、根本的治療法を確立する必要があります。コケイン症候群は、中枢および末梢神経、皮膚、眼、腎臓など多臓器の進行性病変を生じる常染色体劣性遺伝の早老症であり、転写共役因子*4の一つである Cockayne Syndrome(CS)-B蛋白質をコードするCS-B遺伝子の変異の結果、DNA修復の異常が引き起こされると考えられていますが、それが老化の促進にどのように関係するか詳しいメカニズムは明らかではありませんでした。このような状況で、シンガポール国立大学のGrace Kah Mun Low博士らは、CS-B機能の欠如した患者さん由来の繊維芽細胞では、コントロールの細胞に比べて、過酸化酸素処理による酸化ストレス条件下で、テロメア短縮率の増加、形態的、機能的な老化所見が促進することを観察しました。これらの結果は、CS-Bの機能喪失により酸化ストレスによるDNA修復異常が老化促進に繋がる可能性を示唆しています。今回は、査読前の論文がbioRxivに掲載されていますので(文献1)、それを紹介いたします。最近、早老症患者のiPS細胞の樹立が報告され、他方では、老化細胞を除去する研究が進展しており、近い将来、早老症に対して有効な治療法が見つかることが期待されます。
文献1.
Role of Cockayne Syndrome B (CSB) Protein in Genome Maintenance in Human Cells under Oxidative Stress., Grace Kah Mun Low et al. bioRxiv preprint January 3, 2025.
コケイン症候群は核酸切断修復に関与する転写共役因子の一つであるCS-B蛋白質をコードするCS-B遺伝子の変異により引き起こされる早老症である。本プロジェクトにおいては、CS-Bが、酸化ストレス条件下で、酸化によるDNAの損傷に対処し、テロメアの整合性を維持する役割を持つことを証明する。
この目的のため、CS-B機能の欠如したコケイン症候群の患者さん由来の線維芽細胞;CS-B(-)細胞、とコントロールの線維芽細胞を急性、又は、慢性的な過酸化水素による酸化ストレス下において培養し、比較解析した。
これらの観察結果は、ゲノムの維持におけるCS-Bの多面的な役割を支持するとともに、CS-Bが酸化ストレスに対する脆弱性、テロメアの不安定性を通して、コケイン症候群の病態に関与していることを強調するものである。