これまで、アルツハイマー病(AD)においては、アミロイドb (Ab)の凝集が神経毒性の中心であり、根本治療のターゲットにされてきました。実際、抗Abモノクローナル抗体を用いた第3相臨床試験は成功し、承認されましたが、治療効率が高くないこと、脳浮腫や微小出血などの副作用が起きることなどいくつかの問題点も明らかになり、さらに改善する必要があると考えられています。従って、異なる角度からのアプローチで治療の可能性を追及することも重要です。近年、老年医学の分野では、細胞老化に着目した研究が注目されています。AD、糖尿病や動脈硬化といった生活習慣病、慢性腎臓病など加齢関連疾患は、その病態が特定の細胞の老化によって引き起こされるという興味深い仮説です(図1)。加齢やストレスによって体内の組織に蓄積した老化細胞が、SASP(細胞老化随伴分泌現象)*3という現象を引き起こし、過度のSASPが慢性炎症を誘発し、加齢関連疾患の原因になると仮定します。もし、これが正しければ、蓄積した老化細胞を除去することで、加齢関連疾患における病的な老化形質を改善出来ると考えられます。この老化細胞を選択的に除去する手法は、セノリシスと呼ばれており、これまでに数々の老化細胞除去薬が開発されてきました(図1)。今回、米国・ハーバード大学医学部・ヒンダ&アーサー・マーカス老年研究所のCourtney L Millar博士らは、ADの治療におけるセノリシスの有効性を評価するパイロット試験を行いました。すなわち、ADを発症するリスクのある歩行速度が遅い高齢者の集団におけるDQによるセノリシスの評価です。その結果は、AD患者におけるDQ治療の安全性、忍容性および実現可能性を支持するものでした。今回は、最近のeBioMedicineに掲載された論文(文献1)を紹介致します。これらの結果の有効性が、将来的に、さらに大きな患者数を用いたコホート研究で確認され、治療に結びつくことが期待されます。
文献1.
A pilot study of senolytics to improve cognition and mobility in older adults at risk for Alzheimer’s disease, Courtney L Millar et al. eBioMedicine 2025Feb 25;113:105612.
現在のADの治療は、抗Abモノクローナル抗体を用いた免疫療法が先行しているが、異なるアプローチも開発するのが望ましい。本プロジェクトは、ADの治療におけるセノリシスの有効性を評価する目的で、ADのリスクのある歩行速度が遅い高齢者を対象にDQによるセノリシスのAD予防効果に対する有効性を評価するための単腕*4・パイロット試験を行った。
本研究は、断続的なDQ治療が安全に実行可能であり、データは、ADのリスクがある高齢者の潜在的な機能的利点を示唆している。また、TNF-αの観察された減少とMoCAスコアの増加との相関は、DQがSASPを調節することによって認知を改善する可能性があることを示唆している。しかしながら、データは予備的なものであり、慎重に解釈する必要がある。