ADの治療研究において抗アミロイドb(Ab)抗体による免疫療法が臨床治験に成功する過程で、早期の治療開始の重要性が再認識されることになりましたが(早期アルツハイマー病に対するLecanemab(レカネマブ)の治療効果〈2023/5/10掲載〉)、それまで、臨床治験に失敗した治療法に関しても投与時期や投与量などの条件を見直す必要があります。その一つが、NSAIDsです。NSAIDsは、アラキドン酸カスケードのシクロオキシゲナーゼを阻害することで、プロスタグランジン類の合成を抑制します(図1)。プロスタグランジンの中でも、特にPGE2は起炎物質・発痛増強物質ですが、NSAIDsは主にPGE2の合成抑制によって鎮痛・解熱・抗炎症作用を発揮します。また、NSAIDsは、Abの産生を抑制することが知られています(図1)。さらに、疫学的にNSAIDsの服用者はADになりにくい事が注目されています。それにもかかわらず、NSAIDsの臨床治験はこれまで失敗に終わり、NSAIDsにADの予防効果は無いと結論されました。このような状況で、オランダ・エラスムス大学医療センターのIlse Vom Hofe博士らは、ロッテルダム研究の結果を解析し、NSAIDsの長期使用は認知症の症状の出現を有意に低下させるが、短期および中期使用では保護効果は認められないことを見出し、おそらく、NSAIDsが長期に渡り炎症を抑制することが関係しているのではないかと推測しました。これらの結果は最近のJournal of the American Geriatrics Society誌に掲載されましたので、今回、この論文(文献1)を紹介いたします。NSAIDsには、長期服用に伴う主な有害作用(副作用)として、消化性潰瘍や腎障害、造血器障害などがあり、克服する点も多いですが、今後のADの予防治療に繋がる可能性が期待されます。
文献1.
Long-Term Exposure to Non-Steroidal Anti-Inflammatory Medication in Relation to Dementia Risk., Ilse Vom Hofe et al, Journal of the American Geriatrics Society 2025 Mar 04
疫学的にNSAIDsの使用がADの予防に役立つかもしれないということが示唆されて、これまで短期間のランダム化比較試験*3がいくつか行われてきたが、それらの結果は一致していない。本プロジェクトは、その理由を明らかにすることを目的に、参加者数の多いコホート研究で、NSAIDsの服用期間、服用量に重点を置いた解析を行った。
本研究の結果は、NSAIDs の長期間服用は、認知症の症状の出現を抑える可能性があるが、服用量とは関係しないと示唆している。NSAIDsによる長期間の炎症抑制によるものではないかと思われる。