現代のがん治療において、遠隔転移がないと診断された限局性のがんに対しては、外科手術が行われますが、目では見えないほどのがん細胞が残存し、血液やリンパ液を経由して全身のどこか別の組織に転移し、再発する可能性は避けられません。それを防ぐ目的で薬物療法(抗がん剤、分子標的治療薬*1など)や放射線による治療を追加するのが、術後補充療法、すなわち、アジュバント療法です(図1)。乳がんの場合、がんの早期診断、摘出手術、アジュバント療法という一連の治療を適切に行うことによって(図1)、寛解・完治が期待出来ます。乳がんのアジュバント療法は、がんのステージ、ホルモン受容体HRやHER2*2タンパク発現の有無(HR+/-, HER2+/-)、患者の年齢や健康状態などに基づき、複数の治療法を組み合わせて選択されますが、現時点で、確定したプロトコールが無いために各々の医師の裁量に委ねられる部分が多いようです。このような状況で、イタリア・セイクリッド・ハート・ドン・カラブリア病院のStefania Gori博士らは、イタリア国内の多施設で行われた乳がんの手術・アジュバント療法に関する前向き観察研究(BRIDE研究)の結果を解析し、臨床現場では、他分野にわたるチーム内での専門家の協力で、イタリア医学腫瘍学会や欧州臨床腫瘍学会の推奨する補助全身療法、補助放射線療法のガイドラインを遵守する事が重要であると結論しています。これらの結果は、最近のFrontiers in Oncology誌に掲載されましたので、今回はこの論文(文献1)を紹介いたします。このように、乳がんのアジュバント療法に関しては、近い将来、世界中に共通したガイドラインが出来上がるものと予想されます。しかしながら、乳がんと異なり、現行のアジュバント療法が効きにくい膠芽腫や膵臓がんのような悪性度の高い腫瘍に対してはどう対処したら良いかという重要な課題は残されています。
文献1.
Adjuvant systemic therapy in early breast cancer and results of a prospective observational multicenter BRIDE study: patients outcome and adherence to guidelines in cancer clinical practice, Stefania Gori et al, Front Oncol 2025 Apr 8;15:1501667.
がんの治療においては、他分野にわたるチーム内での専門家が協力してガイドラインを遵守した治療を推進する事が重要である。本プロジェクトは、これを乳がんのアジュバント療法において、明確にすることを研究の目的にした。
本研究の結果より、ステージ1、2、3の乳がん術後の患者さんにおいて、病理組織検査の結果をもとに、ガイドラインに従うことにより、術後に施行するアジュバント療法のタイプに影響した事が明らかになった。