最近、お伝えしております様にADの治療においては、抗アミロイドβ(Aβ)モノクローナル抗体を用いた免疫療法が承認されましたが、そこまで至る過程の多くの研究から、早期に治療介入の重要性、鋭敏な感度のバイオマーカーの必要性が明らかになりました。ADのバイオマーカーに関しては、CSF中の分子やPETなどの画像診断が用いられて来ましたが、最近、最も注目されているのが、血漿中のp-tau217です。アミロイドカスケード仮説*5によれば、Tauのリン酸化・凝集は、Aβの下流に位置しますから(図1)、もし、Aβ の凝集がADの早期に重要なら、それがタウのリン酸化に反映することになり、ADのバイオマーカーとして使えるだろうと推測するのはリーズナブルに思われます。したがって、血漿中のp-tau217が、CSF中のマーカーやアミロイドPETに変わり得る非侵襲的で安価なADのバイオマーカーになる可能性が期待されます。また、タウの凝集に関しても免疫療法が精力的に研究されていますが、筆者の知る限り、現時点において、確立されていないようです。このような状況で、中国・広東省にあります広州医科大学のXiaomei Zhong博士らは、異なるコホート研究(南中国老化脳イニシャティブ、リアルワールドデータ)を解析して、血漿中のp-tau217、特に、Aβ1‐42との割合、p-tau217/ Aβ1‐42が、CSF中のマーカーやアミロイドPETの結果とよく相関することからADのバイオマーカーになる可能性を示しました。今回は、最近のAlzheimers Dementに掲載された論文(文献1)を紹介致します。これらの結果が、将来的に、治療に結びつくことが期待されます。
文献1.
Plasma p‐tau217 and p‐tau217/ Aβ1‐42 are effective biomarkers for identifying CSF‐ and PET imaging‐diagnosed Alzheimer's disease: Insights for research and clinical practice, Xiaomei Zhong et al, Alzheimers Dement 2025;21(2): e14536.
最近のAD の治療の基本的な考え方は、Aβモノクローナル抗体を用いた免疫療法などによる「疾患修飾療法*6」である。したがって、バイオマーカーを用いて、病期、病気の程度を評価することが必要であり、本プロジェクトは、血漿中のp-tau217が、CSF中のマーカーやアミロイドPETに変わり得るADのバイオマーカーになる可能性を検討することを研究の目的とした。
本研究は、血漿中のp-tau217が将来のADのリスクを推測する機能的なバイオマーカーになることを示唆している。しかしながら、統計学的、臨床的因子(性別、年齢、アポE遺伝子型 ε4, 認知機能)を統合することが望ましいと思われる。