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2025/6/26

VEXAS症候群の治療に関するシステマティックレビュー•メタ解析

文責:橋本 款

今回の論文のポイント

  • VEXAS症候群は、UBA1*1遺伝子のデノボ変異*2が原因で主に男性で成人以降発症する。多彩な炎症性病態を呈する疾患である。現状におけるVEXAS症候群の治療は、医療機関によって異なるため、統一したガイドラインを確立する必要がある。
  • この様な目的のため、本論文は、システマティックレビュー•メタ解析*3を行い、合計16の研究と367人のVEXAS症候群の患者さんを解析した。
  • その結果、アザシチジン*4が顕著な有効性を示した。また、JAK阻害剤、IL-6阻害剤に実行可能な選択肢であると思われた。
図1.

最近、注目されている疾患の一つであるVEXAS症候群(Vacuoles:液胞、E1 enzyme:E1酵素、 X-linked:X連鎖性、Autoinflammatory:自己炎症性、Somatic:体細胞性)は、後天的な遺伝子異常(X染色体上に位置するUBA1遺伝子のデノボ変異)により、恐らく、ユビキチン-プロテアソーム系の機能不全の影響で、主に男性で成人以降発症し、大球性貧血(ビタミン、葉酸欠乏などによらない)、再発性多軟骨炎、血管炎、骨髄異形成症候群等、多彩な炎症性病態を呈する疾患です(図1)。VEXAS症候群は、2020年に原因不明の炎症性疾患を持つ患者さんを対象にした大規模な遺伝子解析研究を通じてNIH(アメリカ国立衛生研究所)のグループ、及び、共同研究者により見出されました(Beck et al. NEJM 2020)。VEXAS症候群は、死亡率の高い難病にも関わらず、確定診断にはUBA1遺伝子の変異をシークエンスして確認することが必要であり、これができる医療機関は限られるため、現状では広く認知されておらず、治療法も確立されていません。今回、トルコ・イスタンブール大学のBerkay Kilic博士らは、VEXAS症候群の治療法の現状について調べ、治療法のガイドラインを確立することを目的にして、システマティックレビュー•メタ解析を行いました。その結果、白血病治療薬のアザシチジンが顕著な有効性を示し、また、JAK阻害剤やIL-6阻害剤も実行可能な選択肢になり得ることを見出し、Ann Hematol.に報告しました(文献1)。当然、慢性炎症やユビキチン-プロテアソーム系機能不全を特徴とする他の高齢疾患と共通する病理があるのではないかと考えられ、実際、VEXAS症候群とアルツハイマー病との関係の可能性(図1)に関して、最近の総説論文(Sowa et al, Brain Science 2025)にて述べられています。VEXAS症候群は、比較的新しい疾患ですが、将来的には、病態のメカニズムを解明して、disease modifying therapy*5の確立が必要になります。その意味で、UBA1遺伝子にデノボ変異が起きる生物学的意義も興味深いと思われます。


文献1.
Emerging treatment approaches for VEXAS syndrome: a systematic review and meta-analysis, Berkay Kilic et al, Ann Hematol 2025 May;104(5):2617-2630.


【背景・目的】

VEXAS治療法は現状において確立されていない。したがって、治療法に関する明確なガイドラインを作成することを最終的な目的とし、システマティックレビュー•メタ解析(CRD42024590134:MEDLINE, EMBASE~2025年3月までスクリーニング)を行った。

【結果】

  • 合計16の研究と367人のVEXAS症候群の患者さんが対象になった。同時性骨髄異形成症候群(MDS)*6と診断された患者さんは149人(40.6%)であった。
  • アザシチジンによる完全奏効者は67%[95%CI(0.56,0.77)]、部分奏効者は73%[95%CI(0.64,0.82)]であった。
  • JAK阻害剤による完全奏効者は42%[95%CI(0.33,0.52)]、部分奏効者は79%[95%CI(0.71,0.87)]であった。
  • IL-6阻害剤による完全奏効者は24%[95%CI(0.15,0.32)]、部分奏効者は72%[95%CI(0.64,0.81)]であった。

【結論】

アザシチジンが顕著な有効性を示した。また、JAK阻害剤、IL-6阻害剤に実行可能な選択肢であると思われた。さらなる確認のためには、前向きコホートによる臨床試験をクリアーする必要がある。

用語の解説

*1. UBA1 遺伝子
UBA1は、ユビキチン化を開始させる代表的なE1 酵素である。X染色体上に位置するUBA1遺伝子の体細胞変異で生じ、UBA1遺伝子に規定される41番目のアミノ酸であるメチオニンの置換(p.Met41)によって病原性を有する。
*2.デノボ変異
デノボ変異とは、親から受け継いだ変異ではなく、ある個体において新しく発生した変異のこと、DNA複製過程のエラーによって生じ、点変異、短い挿入欠失変異から、数kbに及ぶコピー数変、染色体レベルの変異まで、さまざまなサイズのものがある。
*3.システマティックレビュー•メタ解析
システマティック・レビューは、一定の基準や方法論をもとに質の高い臨床研究を調査し、エビデンスを適切に分析・統合を行うことであり、メタ・アナリシスは、過去に行われた複数の研究結果を統合するための統計解析である。
*4.アザシチジン
骨髄異形成症候群 急性骨髄性白血病治療剤;ビダーザ(一般名:アザシチジン)は、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病などの血液の腫瘍に使用される治療薬である。 血液腫瘍治療薬の中でも代謝拮抗薬に分類され、腫瘍細胞のタンパク質合成を抑える働きをする。
*5.Disease modifying therapy(疾患修飾薬)
疾患の原因となっている物質を標的として作用し、疾患の発症や進行を抑制する薬剤のことをいう。 しばしば症状改善薬と対比的に用いられる。
*5.骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS)
血液細胞は骨の中心部分にある「骨髄」でつくられ、成熟し、血液中へと出て行く。MDSは、造血幹細胞(血液細胞になるおおもとの細胞)に異常が生じて、正常な血液細胞(赤血球、白血球、血小板)が減少する病気である。

文献1
Emerging treatment approaches for VEXAS syndrome: a systematic review and meta-analysis, Berkay Kilic et al, Ann Hematol 2025 May;104(5):2617-2630.