最近、注目されている疾患の一つであるVEXAS症候群(Vacuoles:液胞、E1 enzyme:E1酵素、 X-linked:X連鎖性、Autoinflammatory:自己炎症性、Somatic:体細胞性)は、後天的な遺伝子異常(X染色体上に位置するUBA1遺伝子のデノボ変異)により、恐らく、ユビキチン-プロテアソーム系の機能不全の影響で、主に男性で成人以降発症し、大球性貧血(ビタミン、葉酸欠乏などによらない)、再発性多軟骨炎、血管炎、骨髄異形成症候群等、多彩な炎症性病態を呈する疾患です(図1)。VEXAS症候群は、2020年に原因不明の炎症性疾患を持つ患者さんを対象にした大規模な遺伝子解析研究を通じてNIH(アメリカ国立衛生研究所)のグループ、及び、共同研究者により見出されました(Beck et al. NEJM 2020)。VEXAS症候群は、死亡率の高い難病にも関わらず、確定診断にはUBA1遺伝子の変異をシークエンスして確認することが必要であり、これができる医療機関は限られるため、現状では広く認知されておらず、治療法も確立されていません。今回、トルコ・イスタンブール大学のBerkay Kilic博士らは、VEXAS症候群の治療法の現状について調べ、治療法のガイドラインを確立することを目的にして、システマティックレビュー•メタ解析を行いました。その結果、白血病治療薬のアザシチジンが顕著な有効性を示し、また、JAK阻害剤やIL-6阻害剤も実行可能な選択肢になり得ることを見出し、Ann Hematol.に報告しました(文献1)。当然、慢性炎症やユビキチン-プロテアソーム系機能不全を特徴とする他の高齢疾患と共通する病理があるのではないかと考えられ、実際、VEXAS症候群とアルツハイマー病との関係の可能性(図1)に関して、最近の総説論文(Sowa et al, Brain Science 2025)にて述べられています。VEXAS症候群は、比較的新しい疾患ですが、将来的には、病態のメカニズムを解明して、disease modifying therapy*5の確立が必要になります。その意味で、UBA1遺伝子にデノボ変異が起きる生物学的意義も興味深いと思われます。
文献1.
Emerging treatment approaches for VEXAS syndrome: a systematic review and meta-analysis, Berkay Kilic et al, Ann Hematol 2025 May;104(5):2617-2630.
VEXAS治療法は現状において確立されていない。したがって、治療法に関する明確なガイドラインを作成することを最終的な目的とし、システマティックレビュー•メタ解析(CRD42024590134:MEDLINE, EMBASE~2025年3月までスクリーニング)を行った。
アザシチジンが顕著な有効性を示した。また、JAK阻害剤、IL-6阻害剤に実行可能な選択肢であると思われた。さらなる確認のためには、前向きコホートによる臨床試験をクリアーする必要がある。