新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)が感染症法上の2類相当から5類に変更され、早2年が過ぎました。この間も、オミクロン変異株の流行は、繰り返しており、BA2.86株やJN1株を経て(「JN.1;オミクロンの新たな注目すべき変異株」 2024年2月8日参照)、現在はXEC株*2が優勢になっています。このように、ウイルスが多様化するに連れて、ウイルスの免疫逃避能は増しましたが、毒性は強くならず、幸いにも既存のワクチンが有効であることがわかり、深刻なパンデミックに至りませんでした。しかしながら、その一方で、合併症、後遺症(LONG COVID)の問題は、今も続いています。LONG COVIDと言えば、認知障害など所謂、ブレインフォグ*3が高頻度で出現することが知られていますが(「コロナ後遺症における認知障害のメカニズム」 2024年4月23日参照)、それだけではなく、多彩な症状があります。最近、ミシガン州立大学のMaryam Aleissa博士らは、これまで、3回のCOVID−19のワクチンを接種しており、COVID−19の症状は軽度にも関わらず、虚血性腸炎を発症した患者さんの症例を報告しましたので、この論文(文献1)を取り上げます。COVID-19と虚血性腸炎に関しては、高血圧、糖尿病、心不全、動脈硬化などの基礎疾患のある人において、腸管上皮細胞などに感染した新型コロナウイルスによる微小血管障害、凝固異常*4が引き金になり、腸管膜血栓症による虚血性腸炎のリスクがさらに増大するようなメカニズムが考えられますが(図1)、本症例のように重症化し、緊急手術が必要になることも多く、これまでも、いくつか同様の報告があることからもLONG COVIDにおける虚血性腸炎の重要性に関してよく把握しておく必要があります。
文献1.
Ischemic Colitis and Small Bowel Ischemia in a Vaccinated Patient with Mild COVID-19 Infection: A Case Report, Maryam Aleissa et al, Case Rep Gastroenterol 2025May 9;19(1):335-339.
COVID−19のワクチン接種は呼吸器症状には有効であるが、それ以外の合併症や後遺症に対する予防効果は不明である。本論文は、3回のCOVID−19のワクチンを接種しており、COVID−19の症状は軽度にも関わらず、虚血性腸炎を発症した症例報告を行うことにより、これを議論することを目的とする。
患者さんは86歳女性で新型コロナウイルス感染後に腹痛を主訴として救急部門に来院した。患者さんはこれまで3回のCOVID−19のワクチンを接種しており、また、肺塞栓の既往歴があり、その予防のため抗凝固異常の治療を行っていた。
COVID−19は、ワクチンを接種後においても腸虚血のリスクが高まっている可能性がある。したがって、COVID−19に罹患して間もない患者さんが腹痛を訴えて救急受診した場合には、腸虚血の可能性が無いか注意深く診察するべきである。