最近の研究により、「アルツハイマー型認知症」の根本治療には、病早期に治療介入する必要がある事が示されてきました。認知症には、その他、「血管性認知症」、「レビー小体型認知症」、「前頭側頭型認知症」など、さまざまな種類がありますが、恐らく、これらの疾患においても、類似したメカニズムが介在し、それに基づいた早期治療が重要です。そのメカニズムの一つとして考えられるのは、高血圧です(図1)。以前より、高血圧の治療により、認知症の症状も改善したという報告が小〜中規模のコホート研究で報告されてきました。高血圧が認知症の危険因子であり、高血圧の治療が、認知症の早期治療に結びつくかも知れないと言うのは、興味深い仮説ですが、現時点で確定したわけではありません。テキサス大学サウスウェスタン・メディカルセンターのJiang He博士、及び、共同研究者は、これを明らかにするために、中国農村部の約34,000人の未治療の高血圧の患者さんを対象に、降圧剤による治療介入を行った群、及び、治療介入を行わなかった群、の2つの群において、48ヶ月後に認知症の程度を評価しました。その結果、降圧剤による治療介入した群は、治療介入しなかった群に比べて、あらゆるタイプの認知症の進行が抑制されていました。これらの大規模なクラスターランダム化試験*2の結果は、高血圧における降圧剤による認知症予防の有効性を示唆するものであり、Nature Medicineに掲載されましたので、今回は、この論文(文献1)を取り上げます。今後は、メカニズムの解明を行う事が重要であると思われますが、高血圧の頻度の高さを考慮すれば、認知症の一般的な早期治療法の開発に結びつくかも知れません。
文献1.
Blood pressure reduction and all-cause dementia in people with uncontrolled hypertension: an open-label, blinded-endpoint, cluster-randomized trial, Jiang He et al., 2025, Nature Medicine volume 31, pages 2054–2061 (2025)
認知機能障害は、世界中において、死亡、及び、障害の主たる原因になっている。本研究の目的は、高血圧の治療が、あらゆるタイプの認知症の早期予防治療に結びつくのではないかという仮説を検討することである。
中国農村部における40歳以上の未治療の高血圧患者さん33,995 名に対して、降圧剤による高血圧の治療介入の有無が、あらゆるタイプの認知症の発症・進行にどのような影響を及ぼすか検討した。具体的には、無作為に割り当てた163の村において、降圧剤による治療介入し、他の163の村では、治療介入しないで、2つの群において、48ヶ月後に認知症を評価して比較解析する臨床治験;オープンラベル*3、エンドポイントブラインド*4、クラスターランダム化試験、である。ClinicalTrials.gov: NCT03527719.
本クラスターランダム化試験の結果は、高血圧の患者さんにおいて降圧剤治療による認知症予防の有効性を示唆するものである。