先月、血漿中リン酸化タウが早期アルツハイマー病(AD)のバイオマーカーとして有望であるという論文を御紹介しました(「早期アルツハイマー病のバイオマーカーとしての血漿中リン酸化タウ:p-tau217」2025年6月3日参照)。最近の抗Aβモノクローナル抗体による免疫療法がADの第3相臨床治験に成功した事から、血漿Aβも早期ADのバイオマーカーとして使えるだろうと思われますが、現時点では、一定の見解が得られていません。その理由として考えられるのは、他の因子が認知障害の病態におけるAβの動態に影響を与える可能性です。前回、お伝えしましたように、高血圧が認知症の危険因子であり、高血圧の治療が、認知症の早期治療に有効であるかも知れないことから(「認知症の危険因子としての高血圧」2025年7月24日参照)、高血圧が認知障害の病態におけるAβの動態に影響を与える可能性が想定されます(図1)。中国・西安交通大学のLiu Z博士らは、これを明らかにするために、中国北西地方の農村部に居住する1,488人の早期認知機能障害の患者さんを対象にして、高血圧の有無と血漿中のAβサブタイプの濃度の相関性を解析する横断的研究*1を行いました。その結果、高血圧のある患者さんでは、Aβ40と Aβ42が同時に増加する一方で、高血圧を伴わない患者さんでは、Aβ40が減少することが観察されました。これらの結果は、高血圧が早期認知障害の病態において血漿Aβの動態に影響を与えることを示すものであり(図1)、認知障害のバイオマ―カーや治療法開発の面から重要です。今回は、最近のFront. Aging Neurosci.に掲載された論文(文献1)を取り上げます。今後は、詳細なメカニズムの検討が望まれます。
文献1.
Hypertension moderates the relationship between plasma beta-amyloid and cognitive impairment: a cross-sectional study in Xi’an, China. Liu Z et al, Front. Aging Neurosci. (2025) 17:1532676.
血漿Aβが早期ADや認知機能障害のバイオマーカーとして使えるかどうか、一定の見解が得られていない。特に、高血圧がそれらにどのような影響を及ぼすのか不明である。本研究は、血漿Aβと認知機能障害の関係を横断研究により、明らかにすることを目的とする。
中国北西地方農村部における1488人の早期認知機能障害(ミニメンタルステート検査*3のスコアで評価)の患者さん(40歳以上)に対して、血漿Aβの測定値により、Aβ40, Aβ42をそれぞれ2分し、4つのグループ(I〜IV)に分類した;I. L-Aβ40・L-Aβ42, II. H-Aβ40・L-Aβ42, III. H-Aβ40・L-Aβ42, IV. H-Aβ40・H-Aβ42. 多変量ロジスティック回帰分析*2により、総人口、高血圧グループ、非高血圧グループのそれぞれにおいて、血漿Aβと認知機能障害の関連性を評価した。
高血圧を呈したサブグループにおいては、血漿Aβ40とAβ42の同時増加が、高血圧の無いサブグループにおいては、血漿Aβ40の低下が認知機能障害の危険因子である。これらの結果は、認知機能障害の検出において高血圧を考慮する必要があることを強調するものである。