近年、新しいがん治療法として注目されているがん免疫療法では、免疫チェックポイント阻害薬ががん細胞の周りにいるT細胞などの免疫細胞に働きかけて活性化し、がん細胞を攻撃します。その結果、非常に良い治療効果が出る場合もありますが、残念なことに効果が全く認められないこともあり、そのメカニズムの解明は重要でした。この問題について、岡山大学の冨樫庸介博士、及び、共同研究者らは、がん細胞のmtDNAによく遺伝子変異を伴うことが知られていることから、mtDNAが関係しているかも知れないと考え、そのような異常なmtDNAを持ったがん細胞のミトコンドリアがミトコンドリア・トランスファーにより周囲の免疫細胞に移っていくことにより、免疫細胞の働きが悪くなり、正常な免疫細胞の機能が低下する結果、がん免疫療法の効果が減弱することを見出しました(図1)。ミトコンドリアは、細胞内のエネルギー産生と代謝を担う細胞小器官ですが、ミトコンドリア・トランスファーは、損傷したミトコンドリアを交換して、細胞の機能を回復させる重要な生理学的機能ではないかと考えられています。興味深いことに、がん細胞は、この洗練されたメカニズムをうまく利用して免疫療法による治療を掻い潜り、自らの生存戦略に用いているようです。著者らの発見は、mtDNAの変異ががん免疫療法による治療効果を予測する臨床病理的なマーカーになること、また、メカニズムの視点からも非常に興味深いことから、Nature(Article)に掲載されました。したがって、今回は、この論文(文献1)を紹介致します。これらの結果が、将来的に、がんの免疫療法の改善・治療への応用に結びつくことが期待されます。
文献1.
Ikeda, H. et al. Immune evasion through mitochondrial transfer in the tumour microenvironment. Nature 638, 225–236 (2025)
腫瘍微小環境におけるがん細胞は、様々なメカニズムを用いて、免疫システム、特にT細胞の攻撃を回避する。例えば、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)*4の機能不全は抗腫瘍効果を阻害する。しかしながら、詳細なメカニズムは不明である。本プロジェクトは、これを明らかにするため臨床材料(メラノーマ、非小細胞性肺がん)の解析を行った。
中国北西地方農村部における1488人の早期認知機能障害(ミニメンタルステート検査*3のスコアで評価)の患者さん(40歳以上)に対して、血漿Aβの測定値により、Aβ40, Aβ42をそれぞれ2分し、4つのグループ(I〜IV)に分類した;I. L-Aβ40・L-Aβ42, II. H-Aβ40・L-Aβ42, III. H-Aβ40・L-Aβ42, IV. H-Aβ40・H-Aβ42. 多変量ロジスティック回帰分析*2により、総人口、高血圧グループ、非高血圧グループのそれぞれにおいて、血漿Aβと認知機能障害の関連性を評価した。