医学・生命科学全般に関する最新情報

  • HOME
  • 医学・生命科学全般に関する最新情報

世界で行われている研究紹介世界で行われている研究紹介 がんについてがんについて 教えてざわこ先生!教えてざわこ先生!


※世界各国で行われている研究成果をご紹介しています。研究成果に対する評価や意見は執筆者の意見です。

一般向け 研究者向け

2025/8/14

アロエ食による神経変性疾患の予防効果

文責:橋本 款

今回の論文のポイント

  • アロエ(Aloe)*1は、多くの疾患に効能があることが知られている。神経変性疾患に対する治療効果も期待されているが、そのメカニズムは十分に理解されていない。
  • 本プロジェクトは、アロエがマイトファジー*2不全を改善させることにより、アルツハイマー病(AD)の治療効果をもつと仮定し、これをADのマウスモデル、及び、AD細胞モデルを用いて検討した。
  • その結果、アロエの葉に含まれるアロエ-エモジン(Aloe-Emodin:A-E)*3は、いずれの系においてもマイトファジーを亢進し、ADの治療に対するアロエの有効性を支持するものであった。
図1.

日々の食生活は、そのアンバランスが生活習慣病の原因になりますが、逆に、適切な食品を摂取することは、疾患の予防効果があるなど、食事環境の重要性が認識されるようになりました。後者に関連して、最近、アロエの持つ種々の病気に対する効能が注目されています。実際、アロエの葉に含まれるA-Eは、細胞や動物モデルにおいて、抗菌作用や抗炎症作用を持ち、また、がん細胞の増殖を抑制し、アポトーシスを誘導することが報告されており、感染症、2型糖尿病、がんなど様々な疾患の治療の基礎を築く可能性が考えられています。また、最近、お伝えしていますように、ADやパーキンソン病(PD)などの神経変性疾患の治療は、早期治療、特に、予防治療が不可欠であることが明らかになってきました。注目すべきことに、以前より、A-Eの蛋白凝集抑制効果*4が報告されていることから(図1)、A-Eは、また、ADやPDなどの神経変性疾患の早期治療に有効かも知れないと考えられます。今回、中国・安徽中医薬大学のYulu Wang博士らは、マウスのADモデルにおいて、A-Eを経胃的に投与したマウスはコントロールに比べてマイトファジーが促進して、認知症状が改善していることを観察しました。また、ADの細胞モデルにおいては、A-Eによるミトファジー促進にAMPK、PGC‐1α、SIRT3*5などの分子が関係していることを明らかにしました。これらの結果は、A-EのADの予防治療に対する有効性に一致するものであり、CNS Neurosci Therに掲載されました(文献1)ので紹介致します。蛋白凝集、炎症に加え、ミトファジー不全がADだけではなく、PD、ハンチントン病や筋萎縮性側索硬化症など他の神経変性疾患に共通した病理学的特徴であることを考慮すれば、A-Eが一般的な神経変性疾患の予防治療に使える可能性もあり、非常に興味深いと思われます。


文献1.
Yulu Wang et al. Aloe‐Emodin Improves Mitophagy in Alzheimer's Disease via Activating the AMPK/PGC‐1α/SIRT3 Signaling Pathway, CNS Neurosci Ther 2025;31:e70346.


【背景・目的】

ADの早期治療に対するA-Eの有効性が想定されるがそのメカニズムは不明である。本プロジェクトは、A-EがADの病態におけるマイトファジーの機能不全を改善することに神経細胞のダメージ和らげ、認知機能を改善させる可能性を持つことをADのモデルで証明する。

【方法】

  • APP/PS1ダブルトランスジェニックマウス*6に経胃的にA-Eを与え、認知機能や海馬神経の神経保護効果を評価する。さらに、マイトファジー関連物質(AMPK、PGC‐1α、SIRT3)について解析した。
  • 初代培養マウス海馬神経の培養液中にAβ25‐35を加えた系をADの細胞モデルとしてA-Eによるマイトファジー促進効果を解析した。

【結果】

  • ADマウスモデル(APP/PS1ダブルトランスジェニックマウス)においては、A-Eにより、認知機能は改善し、海馬神経の損傷は軽減した。さらに、A-Eは、マイトファジー関連物質(AMPK、PGC‐1α、SIRT3)の発現を増加させた。ミトコンドリアにおけるSIRT3の増加は、ミトコンドリアの蛋白の機能を調整し、マイトファジーを促進した。ミトコンドリアのオ―トファジーが亢進した時、Beclin1、LC3、P62、 Parkinや PINK1‐関連分子の発現は変化した。
  • ADの細胞モデルにおいても、A-Eは、ミトコンドリアの機能を促進した。ミトコンドリアの膜電位、GSH、ROS、Ca2+レベルは徐々に回復し、ADの神経病理学的特徴は軽減した。
  • 不死化マウス海馬細胞株HT22細胞*7においてSIRT3の発現をノックダウンした時、ミトコンドリアのダメージは増加して、マイトファジーは減少した。

【結論】

本研究の結果は、A-EがAMPK、PGC‐1α、SIRT3の経路を通してマイトファジーを活性化し、海馬神経のダメージを減少させ、ADの認知機能低下を軽減することを示唆している。

用語の解説

*1.アロエ(Aloe)
アロエは、ツルボラン亜科アロエ属の植物の総称。多年草または、低木および高木となる多肉植物で、300種以上が知られている。南アフリカ共和国からアラビア半島まで広く分布するが、とりわけアフリカ大陸南部、およびマダガスカル島に集中して分布する。属名は、古代アラビア語のalloeh(苦みのあるの意)に由来し、葉に苦い汁があることにちなむ。アラビア語でアロエを「ロエ」と発音したので、中国では漢字で音写した「蘆薈」とし、日本で音読みして「ロカイ」とも称した。
*2.マイトファジー(Mitophagy)
マイトファジーとは、オートファジーを介したミトコンドリアの選択的分解機構であり、古くなったミトコンドリアの代謝に関与しているとされる。この機構によって、ミトコンドリア機能障害が関与する疾患から生体を防御していると考えられている。 マイトファジーの実行においては、PDの原因遺伝子として知られているParkin(ユビキチンリガーゼ)が重要な役割を果たしている。ミトコンドリアが脱分極し不良化すると、Parkinはその外膜上に集積する。その後、Parkinのユビキチンリガーゼ活性により不良ミトコンドリアの外膜にユビキチンが付与され、このユビキチンが認識されることによりマイトファジーが実行される、と考えられている。
*3.アロエ-エモジン(Aloe-Emodin:A-E)
アロエエモジン、または、1,8-ジヒドロキシ-3-(ヒドロキシメチル)アントラキノン(1,8-dihydroxy-3-(hydroxymethyl)anthraquinone)は、アロエに含まれるアントラキノノイドの一種で、エモジンの異性体である。強い刺激緩和作用がある。アロエエモジンは皮膚に塗布しても発癌性はないが、ある種の放射線の発癌性を高める可能性がある。
*4.A-Eの蛋白凝集抑制効果
Structural and mechanistic insights into modulation of α-Synuclein fibril formation by aloin and emodin, Vinod Kumar Meena et al. Biochimica et Biophysica Acta 2022, Vol.1866, 130151
*5.SIRT3
SIRT3はミトコンドリア特異的に局在するサーチュインタンパク質である。SIRT3はミトコンドリアに局在しそこでのタンパク質の脱アセチル化を担うNAD+依存性の酵素であり,とくに,貧栄養環境における代謝調節に深く関与する。
*6.APP/PS1ダブルトランスジェニックマウス
キメラマウス/ヒトアミロイド前駆体タンパク質(Mo/HuAPP695swe)と変異型ヒトプレセニリン1(PS1-dE9)をCNSニューロンに発現するダブルトランスジェニックマウスである。早期発症型ADに関連する変異を発現しており、脳の神経疾患、特にAD、アミロイドプラーク形成、および加齢の研究に役立つ。
*7.HT-22細胞
HT-22細胞は、HT-4細胞株からサブクローニングされた不死化マウス海馬細胞株である。 親のHT-4細胞株は、温度感性の高いSV40 T抗原によるマウス神経組織の不死化から得られた。HT-22はグルタミン酸に対して高い感受性を示すため、神経細胞におけるグルタミン酸誘発毒性の研究のためのモデル系としてよく使用される。

文献1
Yulu Wang et al. Aloe‐Emodin Improves Mitophagy in Alzheimer's Disease via Activating the AMPK/PGC‐1α/SIRT3 Signaling Pathway, CNS Neurosci Ther 2025;31:e70346.