2023年5月5日、世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)パンデミックに対する緊急事態宣言の終了を宣言してから後も、何度かオミクロン派生株が出現してきました。現在、流行が拡大しつつあるNB.1.8.1も、オミクロンの亜系統のひとつです。NB.1.8.1株は、「XDV株(XDE株とJN.1株の組換え体)」から派生した変異株です。WHOは2025年5月23日にオミクロンNB.1.8.1株を「監視下の変異株(VUM)*3に分類し、流行動態を監視しています。これまでの変異株と同様、エアロゾル感染*4、飛沫感染*4、接触感染がNB.1.8.1の主な感染経路で、感染してから、平均5~6日程度で現れる「剃刀を飲み込むような」喉の痛みが特徴であり、その他にも、発熱、咳、倦怠感、味覚・嗅覚障害、下痢といった症状が出現します(図1)。新規「オミクロン株」が出現するごとに、新しい変異を獲得したウィルスが100%大丈夫だという保証はないので、注意深く解析することが不可欠です。この目的のため、東京大学医科学研究所の佐藤教授らは、NB.1.8.1株の流行動態や感染性、免疫抵抗性などのウイルス学的特性を解析しました。その結果、NB.1.8.1株は、現在の流行株であるXEC株やLP.8.1株よりも伝搬力が高いことを確認しました。また、NB.1.8.1株はLP.8.1株より高い感染性を示すが、XEC株よりは感染性が低いことが分かりました。さらに、感染中和試験の結果、NB.1.8.1株は、LP.8.1株やXEC株と同等の免疫逃避能を示すことが分かりました。これらの結果より、NB.1.8.1はおそらく大事に至らないと予想されますが、今後、注意深く見守る必要があります。本研究成果は、最近の英国科学雑誌「The Lancet Infectious Diseases」に掲載されました(文献1)ので報告いたします。「剃刀を飲み込むような」喉の痛みのメカニズムは興味深いところです。
文献1.
Keiya Uriu, Kaho Okumura, Yoshifumi Uwamino et al. Virological characteristics of the SARS-CoV-2 NB.1.8.1 variant, Lancet Infect Dis. August 2025
2025年5月現在、JN.1株と別系統のオミクロンXDE株との組換えによって誕生した「オミクロンXDV株」を親系統株とするNB.1.8.1株がシンガポールや香港などを中心に世界各地で急速に流行を拡大している。したがって、NB.1.8.1株のウイルス学的特性を解析するのが本プロジェクトの研究目的である。