前回、お伝えしました様に、地中海式食事法は、典型的西洋食に較べて、ADなどの神経変性疾患を予防する効果があることが示唆されました。(「地中海食と典型的西洋食の野生型マウスにおける神経保護効果の比較解析」2025年9月4日参照)。最近は、地中海食以外にもいくつかの食事療法によるADの予防治療の可能性が研究されています。DASH食は、高血圧予防のために作られた食事法です。食事内容は地中海式食と似ており、野菜や全粒の穀物、低脂肪の乳製品、フルーツを中心とした食事を摂ることで、高血圧の予防や改善に効果があることが示されました。また、これまで、DASH食がADのリスクを下げる可能性についても述べられてきましたが一貫性はありませんでした。このような背景で、今回、イランの首都テヘランにありますシャヒド・ベヘシュティ医科大学のMohammad Mehdi Abbasi博士らは、212人の症例対照研究を行い、DASH食への高い順守がADのリスク低下(~78%)と関連する可能性があることを中東地域において、初めて示しました(図1)。研究成果は、最近のScientific Reports誌に発表されましたので(文献1)、この論文を紹介致します。興味深いことに、米国Rush医科大学による以前の報告では、地中海食とDASH食を組み合わせたMIND(Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay)食*4では、ADのリスクが平均53%まで低下することが示されています(Morris et al. Alzheimer Dement. 2015)(図1)。ADの食事療法に関しては, 今後、さらなる研究が必要ですが、現在、AD治療研究の主流である抗アミロイド免疫療法に較べて、副作用や医療費の心配が無くて済むなどの利点があり、少なくとも、食事療法は、神経変性疾患の補助的な治療に役立つと思われます。また、低脂肪乳製品やナッツ、シリアル、果物・野菜を多用するアメリカ式のDASH食メニューは、日本人の高齢者にとって必ずしも実践しやすいものばかりではないと思われますが、より手軽な日本式のDASH食が作られているのは、朗報かも知れません。
文献1.
Association between the DASH (Dietary Approaches to Stop Hypertension) diet and Alzheimer’s disease in a case-control study, Mohammad Mehdi Abbasi et al., Scientific Reports volume 15, Article number: 23312 (2025)
DASH食の食事内容は地中海式食と似ており、野菜や全粒の穀物、低脂肪の乳製品、フルーツを中心とした食事を摂ることで、高血圧の予防や改善に効果があることが示されている。DASH食がADのリスクを下げる可能性についても述べられてきたが必ずしも一貫性は無い。したがって、この問題を検討するのが本プロジェクトの研究目的である。
本研究の結果より、DASH食への順守はADのリスク低下と関連している可能性があると推定された。しかしながら、症例対照研究という研究の性質上、因果関係を確定できないので、中東地域において、前向き研究デザインでさらに研究する必要がある。