
Tregは、自己に対する免疫応答の抑制を司っているT細胞であり、Tregの機能異常は、がんや自己免疫疾患など様々な疾患の原因になりますが、神経変性疾患においてもTregの機能低下が関与すると考えられています。前回は、免疫チェックポイント分子*3であるLAG3により、T細胞の疲弊がパーキンソン病を促進する可能性をマウスにおけるαシヌクレイン凝集体の腸脳移行の系で示した論文を紹介いたしましたが(「LAG3は制御性T細胞の増殖を抑えて凝集α-シヌクレインの腸脳伝達を促進する」2025年10月21日参照)、今回は、ADの治療研究の分野で、最近、注目されているIL-2について議論を進めたいと思います。IL-2は、活性化したT細胞の発現する細胞障害性T細胞やTregの制御に必須な自己分泌の増殖因子ですから、外部からIL-2を投与すれば、ADで機能が低下したTregを回復することができるのではないかと予想されます(図1)。このような考えに基づいて、米国・テキサスにありますヒューストン・メソジスト研究機構*4のAlireza Faridar博士らは、38名の軽度〜中等度のADの患者さんに対してrec IL-2を皮下注射により投与する第2相a臨床治験を行ったところ、低用量のrecIL-2を投与された患者さんは、副作用がなく、ADの検査項目も有意に改善することを観察しました。この結果は、IL-2がADの新たな治療ターゲットになる可能性を示唆するものであり、非常に興味深いと思われます。今回は、Alzheimers Res Therに掲載された論文(文献1)を紹介いたします。今後、参加者を増やした第3相臨床治験が成功することが期待されます。
文献1.
Low-dose interleukin-2 in patients with mild to moderate Alzheimer's disease: a randomized clinical trial, Alireza Faridar et al., Alzheimers Res Ther 2025 Jul 4;17(1):146. doi: 10.1186/s13195-025-01791-x.
ADではTregsの機能が低下し、免疫系が炎症誘発反応へと移行すると考えられている。したがって、Tregの機能を回復すれば、治療に結びつくかも知れない。本プロジェクトは、ADの進行を改善するために、低用量のIL-2の投与が、Tregsを拡大する際に得られる安全性と有効性を評価するための第2相a臨床治験である。
【結論】