
現在の抗Aβモノクローナル抗体による免疫療法は、初期のアルツハイマー病(AD)患者さんに対する臨床治験に成功したとは言え、治療効率があまり良くないこと、医療価格が高いこと*2、血管浮腫などの副作用があることなど、いくつかの欠点があり、まだ、決定的ではありません。したがって、安価*2で副作用が少ない他の治療戦略も並行して追求した方が良いと思われます。この意味でも、ヒトに感染するヘルペスウイルスHHV(Human herpesvirus)が神経変性疾患の促進に関与する可能性が注目されています。HHVは全部で8種類あり、HHV1, HHV2, …、〜8と番号が振られています(図1)。前回、お伝えしました水痘・帯状疱疹ウイルスもHHV-3として「ヘルペス科」に属しますが、HHV-3だけでなく、その他のHHVメンバーも若年期に脳炎を引き起こすことが知られていますから、神経節などに残存したウイルスが、高齢期に再活性化して、神経変性疾患に関与する可能性を明らかにしておく必要があります(図1)。このような状況で、米国ミネソタ大学医学部のLisa M. James博士らは、CU女性の血液を採取し、認知症のバイオマーカーを解析したところ、血清HHV陽性の被験者のグループは血清HHV陰性グループに較べて、[Aβ40]、[Aβ42]、[Aβ42]/[Aβ40]、[pTau181]、[pTau217]などの年齢に応じた血清濃度の上昇率が有意に高いことがわかりました。このことから、HHVが認知症に促進的に働くことが示され、HHVをターゲットにした治療戦略を立てる上で重要であると考えられました。この研究成果は、Scientific Reports誌に掲載されました(文献1)ので、今回はこの論文を報告いたします。
文献1.
James, L.M. et al, Human herpes viruses are associated with steeper age-dependent increases of serum biomarkers for dementia in cognitively unimpaired women. Sci Rep 15, 25475 (2025).
最近は、CU患者さんにおける認知症のスクリーニングや早期発見のために、認知症の血液バイオマーカーがますます活用されている。HHVの感染が認知障害のない女性において認知症の血清バイオマーカーと関連するかどうか解析するのが本研究の目的である。
ここでは、26〜98歳の167人のCU女性から連続訪問時に採取された345検体において、血清中の数種類の認知症関連バイオマーカー(Aβペプチド;[Aβ40]、[Aβ42]、Aβ42/Aβ40比、リン酸化タウ;[pTau181]、および、[pTau217])の血清レベルを測定し、さらに、HHVs1〜6の血清抗体価を判定した。