
前回、HHVに属する水痘・帯状疱疹ウイルス(HHV-3)が、高齢期に再活性化して、認知症などの神経変性疾患の原因になることをお伝えしましたが(ヒトヘルペスウイルス感染による認知症血清バイオマーカーの年齢依存的増加〈2025/11/26掲載〉)、その他のHHVのメンバーも多くの病気の発症に関与しています。今回、取り扱いますEBV(HHV-4)は、小児期に感染すると、伝染性単核症、成年〜高齢期には、がん(B細胞リンパ腫、鼻咽頭癌、および、胃癌)、自己免疫性疾患(SLE、リューマチ性関節炎)、多発性硬化症(〜60%に認知症を伴う)など多彩な病気の原因となることが知られています(図1)。現時点でEBV感染症の治療法はありませんので、抗ウイルス薬やワクチンなどの治療法を早急に開発しなければならないのですが、このためには、EBV感染のメカニズムを理解する必要があります。このような考えに基づいて、中国・広州にあります中山大学がんセンターのLisa M. James博士らは、EBVの感染効率が単層細胞よりも球状細胞として培養されると著しく高くなることから、球状細胞の状態では、EBV受容体がより高いレベルで発現する可能性を仮定しました。この仮説に基づいて、B細胞および上皮細胞の重要な共通受容体としてR9APを同定しました。実際、R9APをsiRNAでノックダウンするとEBVの感染効率は低下し、逆に、R9APを過剰発現すると感染効率は増加することが示され、これらの結果から、R9APがEBV感染症治療のターゲットになることが示唆されました(図1)。この研究成果は、Nature誌に掲載されました(文献1)ので、この論文を報告いたします。ほぼ、同時期にEBV感染に関与する細胞受容体として、デスモコリン2 (DSC2)が同定されていることから(Wang et al. Nat Microbiol. 2025)、複数の異なる受容体が関係する可能性が示唆されました。
文献1.
Li, Y., Zhang, H., Sun, C. et al. R9AP is a common receptor for EBV infection in epithelial cells and B cells. Nature 644, 205-213 (2025).
EBVは、ヒトの90%以上に持続的に感染し、単核性障害、さらに、上皮細胞またはB細胞由来の複数の悪性腫瘍、および、自己免疫疾患を引き起こす。EBVは、ウイルス性糖タンパク質と宿主受容体との相互作用を通じて上皮細胞やB細胞に感染するが、2つの宿主細胞の感染を共通の受容体が媒介するかどうか不明である。したがって、本プロジェクトは、これを明らかにすることを研究目的とする。
B細胞および上皮細胞の重要な共通受容体としてR9APが発見され、EBVの予防的およびワクチン標的となる可能性があると結論された。