
最近、汎発性神経変性疾患の病態にREが関与する可能性が注目されています。前回、ALSの病態においてSCA2の原因遺伝子であるAtxn2CAGの軽度RE異常がリスク因子になることをお伝えしましたが(筋萎縮性側索硬化症における治療標的としてのAtaxin-2〈2025/12/09掲載〉)、以前より、SCA2にパーキンソン症状が見られることから、SCA2とPDの関連性が言われて来ました。それでは、PDやDLBなどのa-シヌクレイノパチーの病態においても、CAGリピートの伸長が関与しているのでしょうか?これを明らかにするために、オーストラリアメルボルン大学のWang, L. 博士らは、AMP PD LBDプログラムより、37件の神経障害関連RE群の全ゲノムデータを解析した結果、PDおよびDLB、それぞれ、数例において、中断型、または、非中断型Atxn2のREの両方を特定しましたが、対照群にはいずれも含まれませんでした。この結果は、a-シヌクレイノパチーの病態、特にa-シヌクレインの凝集、とAtxn2のREとの関連性(直接的、または、間接的)を示唆するものであり、さらに、SCA2やALSを含む複数の神経変性疾患におけるAtxn2REの「多面発現」を支持することから、Atxn2がこれらの疾患の共通した治療ターゲットになり得るものと思われました。研究成果は、npj Parkinson's Dis.誌に掲載されましたので、この論文を報告いたします(文献1)。PDにおいては、Atxn2RE以外にもいくつかのREが報告されて来ました(図1)*4。これらのREが早期診断のマーカーとして役立つ可能性、あるいは、同時治療ターゲットになる可能性など多くのことが期待されます。
文献1.
Wang, L. et al. Identification of expanded and interrupted ATXN2 repeat expansions in Parkinson’s disease and Lewy Body Dementia cohorts. npj Parkinson's Dis 11, 341 (2025).
REとは、特定の塩基配列が正常範囲を超えて繰り返される遺伝子変異のことで、様々な神経疾患の原因となることが知られている。本研究は、大規模なゲノムデータを用いた包括的なスクリーニングにより、a-シヌクレイノパチーにおけるREの役割を明らかにすることを目的にした。
本研究では、AMP PDのコホートから得られた全ゲノムシーケンスデータを用いて、神経疾患に関連する37種類のREについて解析が行われた。
本研究は、PDやDLBなどの神経変性疾患における遺伝的リスク因子の理解を深めるために重要である。Atxn2遺伝子のREが複数の神経変性疾患に関与することが示されたことで、共通の分子メカニズムを標的とした治療法開発の可能性が広がる。また、全ゲノムシーケンスデータを用いたREの網羅的解析手法は、他の神経変性疾患における遺伝的要因の解明にも応用できる可能性がある。今後は、同定されたAtxn2遺伝子変異を持つ患者の臨床像の詳細な分析や、REが神経細胞に与える影響の分子レベルでの解明が期待される。さらに、より大規模なコホートでの検証や、他の神経変性疾患におけるAtxn2遺伝子変異の調査も重要な研究課題になると思われる。