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2026/2/10

パーキンソン病と環境因子;医者は、パーキンソン病になりやすい?

文責:橋本 款

今回の論文のポイント

  • パーキンソン病(PD)の発症・促進は多くの環境因子により影響されることが知られているが、PDと職業の関連性は不明である。
  • 本プロジェクトでは、労働者健康安全機構入院病職歴データベース(ICOD-R)*1をもとに症例対照研究*2を行った。
  • その結果、医師、歯科医師、獣医師、薬剤師などのホワイトカラーは、他のサービスワーカー、ブルーカラーに比べて、PDのリスクが高いことがわかった。
  • 再現性を確認し、メカニズムを理解できれば、これらの職業の従事者に対するPDの予防治療が可能になるかも知れない。
図1.

高齢期の神経変性疾患は遺伝因子と環境因子が相互に関係し合って発症すると考えられていますが、中でも、孤発性のPDにおいては、多くの環境因子が明らかにされて来ました(図1)。最も研究されてきた危険因子として、農薬・殺虫剤があります。扱う農薬や殺虫剤の量が多く、期間が長いほど、PDを発症する割合が高くなります。他にPDの原因になる環境因子として、金属が知られています。鉄、銅、鉛を扱う工場などで働いている方で、PDの発症する割合が高くなります。また、慢性的な外傷を受けたボクサーが引退後にPDを発症することもよく知られています。他方で、PDの発症や進行に対して予防的に働く因子も研究されて来ました(図1)。喫煙がPDの発症をおさえることから、ニコチンなどをPDの予防や改善に応用する研究に期待が持たれています。また、PDの予防因子として、他にカフェインがあり、コーヒーを飲む人の方がPDの発症が明らかに少ないことが報告されています。今回、東海大学・医学部の中澤祥子博士、深井航太博士らは、PDと職業の関連性について検討するために、ICOD-Rをもとにした症例対照研究を行ないました。その結果、医師、歯科医師、獣医師、薬剤師などのホワイトカラーは、他のサービスワーカー、ブルーカラーに比べて、PDのリスクが高いことがわかりました。以前より、真面目で几帳面な性格はPDの危険因子として知られており、これらの職業の人にPDが多いのは、ドーパミンの分泌量が低いことに関係しているのではないかと考えられますが、現時点では、明らかでありません。これらの結果は、BMJ Open誌に掲載されましたので、今回は、この論文(文献1)を報告いたします。


文献1.
Shoko Nakazawa, Kota Fukai, Yuko Furuya, et al. Occupational risk of Parkinson’s disease and employment status following hospital admission: secondary analysis of ICOD-R case–control data in Japan, BMJ Open 2025 Dec 23;15(12): e107012.


【背景・目的】

職業とPDリスクとの関連性は明らかではない。本研究は、大規模なサンプルを使って解析し、これを明らかにすること、および、PD患者が発症後に職業を変えたかどうかを調べることを目的にした。

【方法】

  • 日本の労災病院グループの入院患者受診データに関する二次分析を用いて、一致した症例対照研究を設計した。すなわち、2005年から2021年にかけて、日本における全国的な多施設入院データセットを解析した。
  • 一次的アウトカム測定;主な成果指標:業界別(ブルーカラー、サービス、ホワイトカラー)と職業階級(ブルーカラー労働者、サービスワーカー、専門職、管理者)に分類される職業とPDリスクの関連性を調べた。
  • 二次的アウトカム測定;PDリスクが高まった職業および産業、60歳未満の参加者における診断前後における職業変化、および化学物質への暴露、喫煙状態および性別との関連性を調べた。

【結果】

  • 喫煙およびアルコールの調整後、サービス業*3界の専門家(OR*4=2.01、95%CI 1.24~3.25)および、ホワイトカラー(OR=1.33、95%CI 1.10~1.61)の業界では、サービス従事者よりもPDリスクが高かった。医師、歯科医師、獣医師、薬剤師はリスクが高かった。
  • 160人のPD患者さんのうち、47%が失業しており、20%が自主的に退職し、30%が診断後も働き続けた。
  • 化学的取り扱いは、複数回の比較を調整した後、PDリスクと関連しなかった。
  • ブルーカラー産業に従事するブルーカラーおよびサービスワーカーの喫煙者は、PDのリスクが低下した。

【結論】

サービス業界およびホワイトカラー業界、特に医療分野の専門家は、PDのリスクが高かった。診断後、約20%が失業した。

用語の解説

*1.労働者健康安全機構入院病職歴データベース(Inpatient Clinico-Occupational Database of Rosai Hospital Group:ICOD-R)
独)労働者健康安全機構が保有するビッグデータである ICOD-R は,1984 年から蓄積された,全国労災病院の700 万件を超える入院病歴の集積であり,入院患者の入院時より遡って 4種類の職歴が記録されているという特徴がある。
*2.症例対照研究(Case-control study)
疾病の原因を過去にさかのぼって探そうとする研究。目的とする疾病(健康障害)の患者集団とその疾病に罹患したことのない人の集団を選び、仮説が設定された要因に曝露されたものの割合を両群比較する。疾病の頻度が低く、症例が母集団の全患者を代表し、対照が母集団を代表する場合はオッズ比(相対危険の近似値)*3から因果関係の推定が可能である。
*3.サービス業
サービス業とは、形のない「サービス」を提供する業種を指す。情報通信、運輸、医療、教育など多岐にわたる分野が含まれ、人々の生活や経済活動を支える重要な役割を担っている。サービス業は、目に見える「物」ではなく、目に見えない「サービス」を提供する業種である。例えば、弁護士や税理士が提供する専門知識を活かしたアドバイスもサービス業に含まれる。サービス業は、大きく分けて以下の9つの種類がある。
  • 情報通信業: 放送、通信、ソフトウェア開発など
  • 運輸業、郵便業: 鉄道、バス、タクシー、航空、物流、宅配など
  • 不動産業、物品賃貸業: 不動産の賃貸・管理、物品のレンタルなど
  • 学術研究、専門・技術サービス業: 弁護士、税理士、コンサルタントなど
  • 宿泊業、飲食サービス業: ホテル、旅館、レストラン、カフェなど
  • 生活関連サービス業、娯楽業: 理容・美容、クリーニング、娯楽施設など
  • 教育、学習支援業: 学校、学習塾、予備校など
  • 医療、福祉: 病院、介護施設、看護師、保健師など
  • 金融・保険業: 銀行、証券会社、保険会社など
*4.オッズ比(Odds Ratio, OR)
ORは、ある事象の起こりやすさを2つの群で比較する統計学的な尺度である。これは、ある事象が起こる確率をpとしたときに、p/(1-p)で表される「オッズ」の比率を意味する。オッズ比は0以上の値を取り、1より大きい場合は要因が事象の発生リスクを増加させ、1未満の場合はリスクを低下させることを示す。

文献1
Shoko Nakazawa, Kota Fukai, Yuko Furuya, et al. Occupational risk of Parkinson’s disease and employment status following hospital admission: secondary analysis of ICOD-R case–control data in Japan, BMJ Open 2025 Dec 23;15(12): e107012.