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2026/2/5

自閉スペクトラム症と認知症の世代を超えた相関関係

文責:橋本 款

今回の論文のポイント

  • 自閉スペクトラム症(ASD)*1の患者さんが認知機能の低下や認知症のリスクが高くなることを示唆する報告されているが、現時点では、ASDと認知症の関連性は、ゲノムワイド関連解析(GWAS)で証明されていない。
  • この関連性が自閉症と認知症の間に共有された家族的影響によるものかどうかは不明である。したがって、本プロジェクトでは、スウェーデンの登録簿にリンクさせた国家レベルの家族調査を実施した。
  • その結果、ASDと認知症は、家族内で共存しており、遺伝的関連の可能性を示唆していた。
  • 以上から、今後の研究では、ASDと認知症、さらには、統合失調症など精神疾患に共通するメカニズムを理解し、治療に結びつけることが期待される。
図1.

ASDは、特定の興味・行動に対して強いこだわりがあり、コミュニケーションや対人関係を苦手とする発達障害の一種です。先天性の脳機能の障害や胎内での環境の影響が関係しているのではないかと考えられていますが、現時点で、原因は明らかになっていません。興味深いことに、ASDは、多くの疾患と併存することが知られています(図1)。また、ASDは持続性で、ASDの患者さんは、高齢期になると認知機能が低下し、アルツハイマー病(AD)を含む認知症全般のリスクが高くなることが指摘されています(アルツハイマー病と自閉スペクトラム症の病態メカニズムの共通性〈2025/2/14掲載〉)。したがって、自閉症と認知症の関連性を明らかにするさらなる研究が必要ですが、高齢のASDサンプルが十分で無いこともあり、現時点では、ゲノムワイド関連解析による結論は出ていません。このような状況で、スウェーデン・カロリンスカ研究所*2のZheng Chang博士、及び、共同研究者は、ASDと認知症の関連性が、遺伝的要因などの家族的因子に起因するかどうかを決定するため、スウェーデンの全体の家族調査を実施しました。この大規模調査の結果、ASD患者さんの親族、特に両親において認知症リスクが高まることがわかったことから、ASDと認知症の両疾患に共通する遺伝的要因の可能性が示唆されました。これらの結果は、Molecular Psychiatry誌に掲載されましたので、今回は、この論文(文献1)を報告いたします。以前にもお伝えしましたように(アルツハイマー病と自閉スペクトラム症の病態メカニズムの共通性〈2025/2/14掲載〉)、ASDは、統合失調症や鬱病など精神疾患のリスクが増加し、また、精神疾患はADのリスクを増加させることから、これらの疾患に共通するメカニズムの一層の理解が治療に結びつくことが期待されます。


文献1.
Zheng Chang, et al. Association between autism and dementia across generations: evidence from a family study of the Swedish population. Mol Psychiatry 30, 4605–4612 (2025)


【背景・目的】

ASDの患者さんが認知機能の低下や認知症のリスクが高くなることを示唆する新たな証拠がある。この関連性がASDと認知症の間に共有された家族的影響によるものかどうかは不明である。したがって、本研究の主な目的は、ASDの患者さんの親族における認知症のリスクを調査することであった。

【方法】

スウェーデンの登録簿にリンクさせた家族調査を実施した。1980〜2013年にスウェーデン国内で生まれた個人を特定し、2020年までフォローアップを行い、これらの個人におけるASDの臨床的診断を特定した。ASD患者さんと両親、祖父母、叔父/叔母を結びつけた。ASD個人の親族における認知症(AD、その他のあらゆる種類の認知症を含む)のリスクは、コックスの比例ハザードモデル*3を用いて推定した。その後、親族の性別およびASD患者の知的障害の有無で層別化し、解析を行った。

【結果】

  • 自閉症の人の親族は認知症のリスクが高かった。
  • 認知症リスクは、両親で最も高く、祖父母、叔父/叔母では低かった。
    • 【両親】ハザード比(HR):1.36、95%信頼区間(CI):1.25〜1.49
    • 【祖父母】HR:1.08、95%CI:1.06〜1.10
    • 【叔父/叔母】HR:1.15、95%CI:0.96〜1.38
  • ASD患者と母親の認知症リスクには、父親よりも強い相関が示唆された。
    • 【母親】HR:1.51、95%CI:1.29〜1.77
    • 【父親】HR:1.30、95%CI:1.16〜1.45
  • ASD患者の親族において、知的障害の有無による差はわずかであった。

【結論】

これらの結果は、ASDと異なる種類の認知症は、家族内で共存しており、遺伝的関連の可能性を示唆していた。今後の研究では、ASDの個人における認知症のリスクを明らかにする必要がある。

用語の解説

*1.自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)
ASDとは、『精神障害の診断と統計マニュアル』第5版(DSM-5)において神経発達症群に分類される診断名の一つ。従来自閉性障害(自閉症)と定義されていた典型的な状態だけに限定せず、軽い状態も重い状態も含む連続体(スペクトラム)としてとらえる診断名で、コミュニケーションや言葉の使い方に関する症状があり、常同行動を示すといった様々な状態を含む。かつてのICD-10やDSM-IVで用いられている広汎性発達障害の中分類に含まれていた、自閉症、アスペルガー症候群*4、特定不能の広汎性発達障害、小児期崩壊性障害などの各障害は、DSM-5においては単一の診断名であるASDとして定義された。そのためDSM-5と、ICD-10やDSM-IVでは正確な分類の一致はない。ASDの診断基準は「社会的コミュニケーションの障害」と「限定された興味」の2つを満たすとDSM-5では定められている。典型的には生後2年以内に明らかになる。有病率は0.65〜1%とされる。性差は男児において女児よりも4倍とされる。またASD児童のうち約30%は知的障害を、11 - 39%はてんかんを併発している。原因については現時点では脳機能の変異とされているが、親の子育て能力は関係しない。ASDは他の神経発達症と同様、一般的には治療法は存在せず、一生続き、治療より療育や支援に重きが置かれる。治療のゴールは、中核症状および関連症状を最小化し、さらに患者のQOLを最大化し患者家族のストレスを軽減することに置かれる。
*2.カロリンスカ研究所(Karolinska Institute)
スウェーデンのストックホルムにある医科大学。カロリンスカ医科大学とも呼ばれる。 1810年にスウェーデン王カール13世によって設立された。医学系の単科教育研究機関としては世界で最大。ノーベル生理学・医学賞の選考委員会がある。2020年のQS世界大学ランキングにおいて、医学系大学で世界5位にランクされている。カロリンスカ大学病院とは大学の教育医療機関として提携している。
*3.コックスの比例ハザードモデル
比例ハザードモデルは、統計学における生存モデルの一種である。生存モデルは、ある事象が発生する前の経過時間を、その時間量に関連する可能性がある1つまたは複数の共変量に関連づけるものである。詳細は専門書をご覧ください。
*4.アスペルガー症候群(Asperger Syndrome)
アスペルガー症候群は、自閉症にみられる特徴(社会性発達の質的障害、興味や活動の偏りなど)を共通の類似点として持っています。自閉症では知的障害や言語発達に遅れを伴うことがありますが、アスペルガー症候群ではそれらはありません。しかし、アスペルガー症候群の方が社会生活を送る際に困難さを伴う点においては自閉症と相違はなく、治療や支援を行うことはとても大切です。アスペルガー症候群と自閉症には重複する部分も多く、近年はASDとして1つの疾患概念に含めて考えられるようになってきています。DSM-5では、アスペルガー症候群と自閉症の診断名は削除され、自閉スペクトラム症に統一されました。

文献1
Zheng Chang, et al. Association between autism and dementia across generations: evidence from a family study of the Swedish population. Mol Psychiatry 30, 4605–4612 (2025)