
膵臓β-細胞のインスリン分泌が概日リズムの影響を受けるのはよく知られていますが、このことは、糖尿病の再生医療においても重要です。すなわち、ウイルスや自己免疫反応によるβ-細胞の破壊により引き起こされるI型糖尿病だけでなく、生活習慣病などが原因でβ-細胞の機能が低下したII型糖尿病においても幹細胞由来のβ-細胞(SCβ-細胞)を移植することにより、インスリン分泌を回復させることが可能になると考えられるからです(図1)。このようなSCβ-細胞による糖尿病の治療を推進するためには、SCβ細胞の移植および機能に影響を与える因子の動態に関して厳密に理解する必要があります。特に、概日リズムは注目されていますが、これまで、宿主の概日リズムが移植したSCβ-細胞のインスリン分泌にどのような影響を与えるか、ほとんど研究されていませんでした。この様な状況で、米国メイヨー・クリニックのSen, Satish K博士らは、ES細胞由来のSCβ-細胞をマウスに移植する実験系において、移植されたSCβ-細胞のインスリン分泌は宿主の概日リズムを示し、宿主の概日リズムの乱れがSCβ-細胞の機能を低下させることなどを観察しました。これらの結果は、糖尿病においても、幹細胞移植治療における概日リズムの重要性を証明するものであり、最近のStem Cell Reports誌に掲載されましたので、今回は、この論文(文献1)を報告いたします。本研究では、ES細胞からSCβ-細胞を調製していますが、将来的にはiPS細胞(人工多能性幹細胞)*4からSCβ-細胞を調製することにより、移植に伴う拒絶反応を最小限にして、個別化医療に発展する可能性があります。
文献1.
Circadian regulation of insulin secretion in transplanted human stem cell-derived pancreatic β-cells, Sen, Satish K. et al. Stem Cell Reports Volume 20, Issue 11, 102691
SCβ-細胞の移植は、糖尿病治療の可能性を有するが、宿主の概日系がどのようにしてSCβ-細胞の移植や機能に影響を与えるかについては、報告されていない。したがって、本研究では、これを明らかにすることを研究目的にした。
この目的のため、ヒトES細胞から調製したSCβ-細胞を重篤な複合免疫不全(SCID)-ベージュマウス*5の腎皮膜下へ移植した。
これらの観察結果は、宿主の概日系がSCβ細胞のインスリン分泌の概日制御を最適化することを示唆している。