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2026/3/3

がん免疫化学療法の時間帯による治療効果

文責:橋本 款

今回の論文のポイント

  • がん免疫化学療法の治療効率が時間帯によって異なることは経験的に知られているが、厳密に検証されていない。
  • 本プロジェクトでは、ステージIIIC-IVの非小細胞肺がん患者さん(n=210)に対する免疫チェックポイント阻害薬*1による治療において、投与時刻による治療効果の違いの有無を調べる第3相臨床試験を行った。
  • 午後15:00時以前に最初の4サイクルの治療を終えたグループは、午後15:00以降に治療を開始したグループに比べて、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)共に生存期間*2が延長した。さらに、この効果は、細胞傷害性T細胞*3の活性増強と関連していたことから、少なくとも一つのメカニズムとして、免疫力の活性化が重要であると推測された。
  • これらの結果は、がん免疫化学療法において、時間帯による治療効果の違いを証明するものである。
図1.

前回、糖尿病の幹細胞移植治療における概日リズムの重要性についてお伝えしましたが(糖尿病の再生医療における概日リズムの重要性〈2026/2/27掲載〉)、これを主に司るのが体内時計*4で、脳の視交叉上核にあります。体内時計は、薬の体内動態にも影響を及ぼすため、投薬時間をうまく調節することで、薬効を最大にし、副作用を軽減させる可能性があります。例えば、がんの治療において、免疫化学療法を日中早期に行う方が、日中後期に行う場合に比べて、より有効性を向上させるのではないかと経験的に言われてきました。しかしながら、これらの考えは、厳密に証明された訳ではありません。この様な状況で、中国湖南省・中南大学のZhe Huang博士らは、ステージIIIC-IVの肺がん患者さん(n=210)の免疫チェックポイント阻害薬投与による点滴治療において、投与時刻によって効果が異なるかどうかを調べるための前向き無作為化対照試験(第3相臨床試験)を行いました。その結果、午後15:00時以前に最初の4サイクルの治療を終えたグループは、午後15:00以降に治療を開始したグループに比べて、生存期間が延長することがわかりました。さらに、この抗腫瘍効果は、細胞傷害性T細胞の特性の増強と関連しており、少なくとも一つのメカニズムとして、免疫力の活性化が重要かも知れないと推測されました。これらの結果は、がん免疫化学療法において、時間帯による治療の重要性を証明するものであり、最近のNature Medicine誌に掲載されましたので、今回は、この論文(文献1)を報告いたします。一般的に、がん免疫療法の副作用は少ないとされますが、まったく無いと言うわけではないでしょう。したがって、投与した直後の様子をフォローする必要があるという意味でも、早い時間帯に治療を開始することが推奨されます。


文献1.
Time-of-day immunochemotherapy in non-small cell lung cancer: a randomized phase 3 trial., Huang Z et al. Nat Med. 2026 Feb 2. Online ahead of print.


【背景・目的】

これまでの研究により、がんの免疫化学療法は、日中早期に投与開始することで、より治療の有効性が期待できるのではないかと示唆されていた。本プロジェクトでは、これを前向き無作為化対照試験で検討することを研究目的とした。

【方法】

これを証明するため、ランダム化肺タイム-C01試験(ClinicalTrials.gov NCT05549037; 第3相臨床試験)を実施した。すなわち、ドライバー変異*5を持たない(分子標的治療の適応とならない)ステージIIIC-IV非小細胞肺がんの患者さん (n=210)が、早期時間帯治療、または、後期時間帯治療の群に1:1の比でランダムに割り付けられた(それぞれ、n=105)。2つの群は、15時以前、あるいは、以降に、抗PD-1剤(免疫チェックポイント阻害薬)の最初の4サイクルを投与することで定義された。主要評価項目はPFSであり、二次評価項目にはOSが含まれていた。

【結果】

  • 28.7か月(中央値)のフォローアップ期間、早期時間帯治療群におけるPFSの中央値は11.3か月(95% CI=9.2~13.4)、後期時間帯治療群では5.7か月(95%CI=5.2~6.2)となり、これと関連して、ハザード比が以前の疾患進行率で0.40(95%CI=0.29–0.55; P < 0.001)となった。
  • 早期時間帯治療群では、OSの中央値は28.0か月、後期時間帯治療群では16.8か月(95%CI=13.7–19.9)であり、これは以前の死亡者数に対するハザード比0.42(95%CI=0.29~0.60;P < 0.001)に相当した。
  • 治療に関連する有害事象は、確立された安全性プロファイルと一致しており、新たな安全性信号は観察されなかった。また、2つのグループ間では、免疫関連の有害事象に有意な差は認められなかった。
  • 最初の4サイクルで、早期時間帯治療群では朝の循環CD8+T細胞が増加したのに対し、後期時間帯治療群では減少した(P < 0.001)。さらに、早期時間帯治療群では、活性化CD8+T細胞と使い果たされたCD8+T細胞の比率が、後期時間帯治療群と比較して高かった(P < 0.001)。

【結論】

以上から、早期時間帯治療群では、後期時間帯治療群と比較して、免疫化学療法はPFSおよびOSを実質的に改善した。これは、CD8+T細胞特性の増強と関連していることが示された。

用語の解説

*1.免疫チェックポイント阻害薬
(抗PD-1抗体薬/抗PD-L1抗体薬)とは、がん細胞を攻撃するT細胞の働きにブレーキをかけている蛋白質であるPD-1とPD-L1の結合を阻止することで、PD-L1により抑えられていたT細胞の働きを活性化することで抗腫瘍効果を発揮させる薬である。何種類かあるうち、本プロジェクトでは、それぞれのグループでSintilimab (n=81)、Pembrolizumab (n=24)が投与された。
*2.生存期間
生存期間とは、診断や治療の開始から対象者が死亡するまでの期間を指し、医学研究、特にがん治療の分野で重要な指標として用いられる。生存期間には、全生存期間(OS:Overall Survival)、無増悪生存期間(PFS: Progression-Free Survival)を含むいくつかの種類がある。OSとは、治療開始から死亡までの期間を意味し、死因は問わず、客観性が高い指標であり、臨床試験で最も重視される指標の一つである。PFSは、特定の治療を受けた患者が病気の進行(がんの再発や増殖)なしに生存している期間を表す。PFSは、抗がん剤や、放射線治療、免疫療法等の治療が進行を遅らせる能力をどれだけ持っているかを示す指標として使われる。
*3.細胞傷害性T細胞(CTL: cytotoxic T lymphocyte or cytotoxic T cell)
CTLとは、リンパ球T細胞のうちの一種で、宿主にとって異物になる細胞(移植細胞、ウイルス感染細胞、癌細胞など)を認識して破壊する。病原体を殺す殺し屋ということからキラーT細胞とも呼ばれる。未分化のT細胞は、ヘルパーT細胞に必要なCD4分子と、キラーT細胞に必要なCD8分子の両方を発現している(ダブルポジティブ、DP)。しかし、やがてT細胞が成熟するにつれ、分化をしていき、CD4とCD8のどちらか一方しか発現しなくなり(シングルポジティブ、SP)、最終的にヘルパーT細胞またはキラーT細胞へと分化することになる。CTLは表面にCD8分子を発現しているT細胞から分化してくる。このような理由から、細胞傷害性T細胞のことを「CD8陽性T細胞」や「CD8+T細胞」と呼ぶ場合もある。
*4.体内時計
概日リズム(サーカディアンリズム)を形成するための24時間周期のリズム信号を発振する機構であり、生物時計とも呼ばれる。脳内の視床下部の視交叉上核に存在する。 生物は地球の自転による24時間周期の昼夜変化に同調して、ほぼ1日の周期で体内環境を積極的に変化させる機能を持っている。
*5.ドライバー変異
周囲の正常細胞よりも腫瘍細胞に対し増殖優位性を与えることがない変異はパッセンジャー変異と定義される。一方、周囲の正常細胞よりも腫瘍細胞に対し増殖優位性を与える遺伝子はドライバー変異と考えられる。非小細胞肺がんは多くのドライバー遺伝子異常が同定され、それに対する分子標的治療薬を用いた治療開発が進んでいるがん種である、2004年にEGFR遺伝子変異が報告されたのをはじめとしてALK融合遺伝子、KRAS、BRAF、HER2遺伝子変異やRET、ROS1融合、MET遺伝子エクソン14スキッピングといったドライバー遺伝子異常が同定されており、EGFR変異、ALK融合、ROS1融合およびBRAF変異に対しては分子標的治療薬が承認されている。

文献1
Time-of-day immunochemotherapy in non-small cell lung cancer: a randomized phase 3 trial., Huang Z et al. Nat Med. 2026 Feb 2. Online ahead of print.