
自閉スペクトラム症(ASD)*4などの発達障害は、認知症などの神経変性疾患を発症するリスクが高くなることが知られています。したがって、蛋白凝集異常に関連したメカニズムが根底にある可能性があります。オートファジーは、細胞内蛋白分解に中心的な役割を担っていますので、オートファジー機能不全が発達障害と神経変性疾患の病態をリンクするかどうか明らかにするのは重要です。ビシ症候群は、EPG5遺伝子の劣性変異によって不完全オートファジーの機能不全をきたし、多彩な症状を引き起こす稀な発達障害ですが、神経変性との関係は十分に認識されていません(図1)。ドイツ・ケルン大学のHormos Salimi Dafsari 博士らは、ビシ症候群と神経変性の関係の有無を調べるため、世界中の共同研究者と協力して、これまでに特定されたEPG5関連患者群の中で最大規模のコホート研究(n=211)を行い、臨床的、放射線学的および分子的特徴を調査し、さらに、EPG5欠損の細胞・動物モデルに関する実験的研究も併せて行いました。その結果、ビシ症候群の患者さんは、EPG5欠損によりさまざまな表現的スペクトルの神経発達障害を呈し、思春期のパーキンソン病や認知機能低下を伴うジストニア、脳の鉄蓄積障害など年齢依存の神経変性症状が認められた。すなわち、病原性EPG5変異と関連する不完全オートファジーを通じて神経発達障害と神経変性疾患を結びつける生涯にわたる神経疾患の連続体の形成を示唆していた。本研究結果が、どの程度、その他多くの発達障害と神経変性疾患の共存関係(合併)に対して一般性のあるメカニズムになり得るかどうか結論するには、さらなる研究が必要ですが、おそらく、何らかの形で蛋白凝集が関与する可能性がありそうです。これらの結果は、Ann Neurol.誌に掲載されましたので、今回は、この論文(文献1)を報告いたします。
文献1.
Mutations in the Key Autophagy Tethering Factor EPG5 Link Neurodevelopmental and Neurodegenerative Disorders Including Early-Onset Parkinsonism., Hormos Salimi Dafsari et al. Ann Neurol 2025 Oct 6;98(5):932–950.
オートファジーは、細胞内恒常性において重要な役割を果たす基本的な生物学的経路である。オートファジー遺伝子EPG5における反復性の低減変異は、多系統の広範な関与を伴う重篤な早期発症神経発達障害であるビシ症候群と関連している。本研究では、年齢に応じた長期のEPG5関連疾患スペクトラムとして、神経変性が含まれるかどうか調べることを目的にした。
この目的のため、これまでに特定されたEPG5関連患者群の臨床的、放射線学的、分子的特徴を調査し、さらに、EPG5欠損の細胞モデル(ビシ症候群患者さん由来の線維芽細胞)および動物モデル(反復性EPG5ミスセンス変異体の新しいEPG5ノックインマウス*5モデル、線虫)に関する実験的研究も行なった。
以上の知見は、病原性EPG5変異と関連する生涯にわたる神経疾患の連続体(スペクトラム)を示しており、不完全オートファジーを通じて神経発達障害と神経変性疾患を結びつけていると考えられた。