
近年、老年医学・加齢医学(Geroscience)の領域では、認知症、糖尿病や動脈硬化といった生活習慣病、慢性腎臓病など加齢関連疾患において、セノリティクスと呼ばれる新しい治療の可能性が注目されています。セノリティクスは、老化細胞除去薬(セノリティック薬)により、「老化細胞*3」を標的とし、SASP*4を抑制したり、細胞死を誘発して老化細胞そのものを破壊・除去したりするアプローチで、老化細胞の30〜70%を選択的に排除する薬剤です。昨年、取り扱いましたように、セノリティクスの中でも、特に治療有効性が高いと考えられているのが、ダサチニブとケルセチンの併用療法です(老化細胞除去による認知・運動機能の改善に関するパイロット研究〈2025/4/10掲載〉)。ダサチニブは、いわゆる抗がん剤のひとつで、チロシンキナーゼ阻害剤(Tyrosine kinase inhibitor: TKI)と呼ばれる特定のターゲットに働く分子標的薬です。ケルセチンは、植物フラボノイド*5として広く認知されており、その抗酸化・抗炎症作用により、ダサチニブとの併用 (D+Q)で補完的セノリティック作用が示唆されています。これまで、ダサチニブとケルセチンの併用 (D+Q)による治療効果の増強は、特発性肺線維症、II型糖尿病性骨粗鬆症などのマウスモデルにおいて報告されて来ましたが、糖尿病性腎障害(DKD)に対する効果は検討されていませんでした(図1)。今回、米国・メイヨー・クリニックのXiaohui Bian博士らは、DKDのマウスモデル及び細胞モデルにおいて、ダサチニブとケルセチンの併用効果を観察しました。これらの結果は、eBioMedicine誌に掲載されましたので、今回は、この論文(文献1)を報告いたします。現時点においては、DKDの治療は、人工透析に頼らざるを得ない状況である事を考慮すれば、ですが、本論文のような前臨床段階の結果が、将来的には、ヒトの臨床に応用できることが期待されます。
文献1.
Senolytics, dasatanib plus quercetin, reduce kidney inflammation, senescent cell abundance, and injury while restoring geroprotective factors in murine diabetic kidney disease
Xiaohui Bian et al. eBioMedicine 2026;124: 106124
細胞老化は、DKDの病態形成に寄与し、重要な治療標的となる。本研究では、DKOのセノリティック治療において、ダサチニブとケルセチンの併用療法 (D+Q)を確立することを最終的な目標にし、まず、マウスモデル、細胞の系において検討した。