
セノリティクス薬は健康寿命の延長だけでなく、糖尿病、神経変性疾患、心血管障害などの治療、さらに、老化に関連する多くの問題に有効であると考えられます。その一つが、がんのアジュバント・ネオアジュバント療法に伴うフレイルに対するセノリティクス治療の可能性です。近年、治療の進歩により、がんの生存率は著しく向上しましたが、その一方で新たな問題が生じてきました。乳がんなど多くのがんの治療では外科手術施行の前後に化学療法、放射線療法などのアジュバント・ネオアジュバント療法を行なうのが一般的な標準治療になっていますが、その結果、高齢の患者さんでは、身体機能が持続的に低下して改善しにくい状態、所謂、フレイルに陥ることが明らかになりました。現時点で、これに対する適切な治療法はないので、早急に対処しなければいけません。この問題に関しての一つの手掛かりは、老化細胞の役割です。実験動物を使った前臨床研究では、化学療法が老化を誘導し、老化細胞をセノリティクスで標的にすることで炎症を軽減し、身体機能を改善できることが示されていますので、これらの結果をヒトで評価することが望まれます。このような状況で、米国・カリフォルニア大学ロスアンゼルス校のJingran Ji博士らは、セノリティクス作用を持つフラボノイド化合物であるフィセチンが、乳がんアジュバント療法後のフレイルを改善する作用があるか評価する第2相臨床試験を計画しました(ClinicalTrials. NCT05595499)。もし、有望な結果が得られれば、より大規模の第3相臨床試験でフィセチンの有効性を評価することになります。そして、近い将来、フィセチンは、がん患者さんにおける化学療法に関連した身体機能の低下を予防または治療するための新規薬理療法として、重要な未達成の臨床的ニーズを満たす可能性があります。今回は、Therapeutic Advances in Medical Oncology誌に掲載された論文(文献1)を報告いたします。デザインだけで論文化されることからも、注目度が高い問題であることが伺われ、今後、治療研究が発展して行くことが期待されます。
文献1.
A phase II randomized placebo-controlled study of fisetin to improve physical function in breast cancer survivors: the TROFFi study rationale and trial design
Jingran Ji et al. Ther Adv Med Oncol. 11 March 2026, 18:17588359261424668
アジュバント/ネオアジュバント化学療法で治療された閉経後乳がんの患者さんは、治療後に持続的な機能低下を経験することが多いが、それに対する治療法はない。最近の研究は、このメカニズムの一つは、加齢の根本的な過程である細胞老化と示唆している。実際、これまでに、実験動物を用いた前臨床研究では、化学療法は老化を誘導し、老化細胞をセノリティクスで標的にすることで炎症を軽減し、身体機能を改善できることが示されている。しかしながら、これらの結果をヒトで評価した研究はない。
経口セノリチス剤フィセチンの安全性は以前に示されている。本プロジェクトは、化学療法を受けた閉経後乳がん患者さんにおいて、フィセチンによる老化標的の有効性を評価するための第2相臨床治験を行うことを研究目的とした。