
認知症に関連した論文や記事に目を通しますと、「近い将来、5人に1人が認知症になる」、「誰もが認知症になり得る」、「2050年には1,000万人に増えると予測されている」、あるいは、「医療費・介護などの社会的問題はさらに深刻化する」など、悲観的な内容で溢れています。このような予測の根拠となるのは、一つは、疫学的な解析ですが、実際、これまで、認知症の有病率の増加傾向に関する報告がされて来ました。しかしながら、興味深いことに、最近の疫学的研究(主に西洋諸国からの)では、認知症の有病率における傾向が安定しているか、あるいは、低下していることが示唆されています。このような解析は、厳密に言えば、国や人種によって異なる可能性もありますので、我が国独自の解析を行うことが望ましいと思われます。久山町研究*1は、1961年以降に実施された、心血管疾患、その他の生活習慣関連疾患および認知症に関する集団ベースの疫学的研究として注目されていますが、久山町は、福岡都市圏に位置し、この町の住民の年齢や職業分布、および栄養素の摂取量は、過去60年間、日本のそれとほぼ同じ水準であることが国勢調査で示されており、日本の平均的なコミュニティーを反映する結果が得られると期待されます。今回、九州大学・医学部の大原知之博士らは、久山町研究が37年間にわたり実施した認知症調査のデータを解析しました。その結果、認知症の罹患率および発症率は、2012年を境にそれまでの増加傾向から転じて、減少することがわかりました。これは、中国の高齢者における認知機能障害の有病率が、2002年から2008年にかけて増加し、その後2018年まで減少したという報告(Chen H et al. Alzheimers Dement. 2023)に類似しています。したがって、アジア諸国においては、認知症は減少傾向にあるのかも知れません。まだ、さらなる研究が必要ですが、恐らく、II型糖尿病や高血圧など生活習慣病の対策が功を奏した可能性があります。今回は、昨年末にAlzheimer's Research & Therapy誌に掲載された論文(文献1)を報告いたします。
文献1.
Ohara, T., Minohara, T., Nakazawa, T. et al. Thirty-seven-year trends in the prevalence, incidence, and prognosis of dementia in a Japanese community: the Hisayama study. Alz Res Therapy 17, 264 (2025).
2010年代以降、アジア系コミュニティにおける認知症の有病率、発生率、生存率がどのように変化したかを調査した集団ベースの研究はほとんどない。
本プロジェクトは、久山町(日本人コミュニティ)における37年にわたる疫学データの解析を行うことにより、この問題を明らかにすることを研究目的とした。