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2026/4/16

LRRK2標的型アンチセンスオリゴヌクレオチド投与によるパーキンソン病の治療

文責:橋本 款

今回の論文のポイント

  • LRRK2遺伝子の変異によるLRRK2の活性化は、常染色体優性の家族性パーキンソン病(PD)を引き起こすと考えられており(PARK8)*1、現在、LRRK2の阻害剤による治療研究が精力的に行われている。
  • 本研究では、アンチセンスオリゴヌクレオチド治療でLRRK2の発現レベルを低下させ、LRRK2活性を抑制することが、PDの治療に有効である可能性を検討するための第1相臨床治験を行った。
  • その結果、軽度〜中等度の副事象*2を認めたが、関連する重篤な有害事象*3はなかった。また、LRRK2活性が低下する所見を得られた。
  • これらのことから、LRRK2標的型アンチセンスオリゴヌクレオチド治療の第1相臨床治験は成功したと考えられる。
図1.

パーキンソン病 (PD)の多くは孤発型ですが、5~10%のPDは遺伝性(家族性)です。αシヌクレイン(PARK1, 4)やパーキン(PARK2)が同定されて以来、現在、22遺伝子座の単一遺伝子異常に伴うPDが知られています。遺伝性PDの中で最も頻度が高いのは、leucine rich-repeat kinase 2(LRRK2)遺伝子変異による常染色体優性PDです(PARK8)。興味深いことに、LRRK2遺伝子変異を有するPARK8の患者さんは、孤発性PD患者さんと臨床症状が類似していること、さらに、孤発型PDの患者さんの多くはLRRK2のキナーゼ活性が高いことなどから、LRRK2遺伝子変異による神経変性機構を解析することが、PDの病態解明、及び、治療に結びつく可能性があり、特に、LRRK2の活性を抑制することが治療に結びつくのではないかと予想されました(図1)。このようにして、LRRK2阻害剤*4の開発(パーキンソン病の治療研究;G2019S LRRK2キナーゼ阻害剤によるミトコンドリアDNA損傷の回復〈2024/9/5掲載〉)が臨床試験(第3相)で試みられています。PDにおいてLRRK2が治療標的になる可能性は高いと考えられますが、現時点では、治療法が確立されていない以上、いくつかの異なる方法でアプローチすることが重要です。このような状況で米国・Biogen社のOmar S. Mabrouk博士らは, PD患者さん(n=40)に対してアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与してLRRK2mRNAをノックアウトする核酸療法(第1相臨床治験)を行いました。その結果、これに関連する重篤な有害事象は認められず、脳脊髄液中リソソームタンパク質のレベルが同時に低下したことで、LRRK2アンチセンスオリゴヌクレオチドによる核酸医療がPD病態生理学に影響を及ぼす可能性があることがわかりました。今回は、Nat Med.誌に掲載された論文(文献1)を報告いたします。今後、阻害剤の開発とともに、PDの治療研究が発展して行くことが期待されます。


文献1.
LRRK2-targeting antisense oligonucleotide in Parkinson’s disease: a phase 1 randomized controlled trial
Omar S. Mabrouk et al. Nat Med. Published: 24 March 2026


【背景・目的】

LRRK2変異は、PDの最も一般的な遺伝的原因である。もし、遺伝子変異、その他の原因でLRRK2の活性が亢進することが、PDを推進するならば、アンチセンスオリゴヌクレオチド治療でLRRK2の発現レベルを低下させ、LRRK2活性を抑制することが、PDの治療に有効である可能性がある。本プロジェクトは、これに関する安全性・有効性を評価する第1相臨床治験(ClinicalTrials.NCT03976349)を行うことを研究目的とした。

【方法】

  • BIIB094は、LRRK2 mRNAを標的にして分解を行うアンチセンスのオリゴヌクレオチドである。今回の無作為化第1相研究においては、PD患者さんにおける脳内BIIB094の安全性、耐容性、薬物動態及び薬物力学を調査した。
  • パートAでは、40人の参加者が10〜150mgのBIIB094またはプラセボを1回投与された。
  • パートBでは、42人の参加者がLRRK2変異株の状態により、4週間ごとに4回の投与(40~120mgのBIIB094またはプラセボ)を投与された。

【結果】

  • 副事象は、パートAの参加者の64.5%(20/31)、及び、パートBの参加者の84.8%(28/33)が報告された。これらの事象は主に軽度か、用量制限毒性*5を超えるものではなかった。
  • BIIB094に関連する重篤な有害事象は、パートA、または、パートBのいずれにおいても報告されなかった。
  • 全身性BIIB094への暴露は、用量とともに増加した脳脊髄液中の LRRK2 及び LRRK2 の基質として報告されているリン酸化RAB10*5値は、LRRK2変異体の状態にかかわらず、それぞれ最大59%及び最大50%低下した。

【結論】

今回のLRRK2標的型アンチセンスオリゴヌクレオチド治療がPD病態生理学に影響を及ぼす可能性があることがわかった。また、LRRK2治療薬の安全性は確認された。以上の結果より、の第1相臨床治験は成功したと考えられる。

用語の解説

*1.PARK8
パーキンソン病の治療研究;G2019S LRRK2キナーゼ阻害剤によるミトコンドリアDNA損傷の回復〈2024/9/5掲載〉)参照。
*2.副事象
統計や医学、工学などでは、主に注目している出来事のほかに、同時に観測される別の出来事を「副事象」と呼ぶこともある。例えば、・主事象:ある薬で期待している効果が現れるかどうか、・副事象:その薬を使った結果として起こる別の変化や出来事、といったように、「メインではないが関係する別の出来事」というニュアンスで使われることがある。
*3.有害事象
有害事象とは、医薬品や医療行為との因果関係の有無にかかわらず、治療や試験の経過中に患者に生じたあらゆる好ましくない医学的出来事を指す用語である。副作用はそのうち「原因薬剤との関連が否定できないもの」を指す点で区別される。
有害事象の基本的な定義
  • 医薬品や治験薬、医療行為の後に起きた好ましくない出来事を指す。
  • 因果関係が不明でも、時間的に関連していれば含めて記録する。
  • 症状、検査値異常、新たな病気の発症、既存疾患の悪化などを含む。
*4.LRRK2 阻害剤
パーキンソン病の治療研究;G2019S LRRK2キナーゼ阻害剤によるミトコンドリアDNA損傷の回復〈2024/9/5掲載〉)参照。
*5.L用量制限毒性(Dose limiting toxicity:DLT)
DLTとは新規抗がん剤を患者さんに投与する際にこれ以上の増量ができない理由となる毒性(有害事象)のことをいう。
*6.リン酸化RAB10
RAB10は、小型GTP結合タンパク質RABファミリーの一つで、細胞内で次のような役割を持つことで知られている;細胞内小胞輸送の調節、エンドソームから細胞膜への輸送、インスリンシグナルなどに関連した膜タンパク質の輸送調節。細胞の「物流」を調整する小さなスイッチのような存在だとイメージすると分かりやすい。
リン酸化RAB10とは、RAB10タンパク質の特定のアミノ酸残基がキナーゼによってリン酸基を付加された状態を指す。
  • RAB10自体はGTP/GDPの結合でオン・オフが切り替わるスイッチ。
  • さらにリン酸化されることで、その働き方や結合相手が変化する。
  • 特定のシグナル経路の「下流マーカー」として扱われることも多い。
このように、「リン酸化されているRAB10」は、あるシグナル経路がどれくらい活性化されているかを示す指標として実験で測定される。興味深いことに、RAB10は、LRRK2の生理的基質として同定された。

文献1
LRRK2-targeting antisense oligonucleotide in Parkinson’s disease: a phase 1 randomized controlled trial
Omar S. Mabrouk et al. Nat Med. Published: 24 March 2026