
近年、ADなど神経変性疾患の治療研究が進展していく中、病期の判定や疾患修飾薬による治療効果を評価するためのバイオマーカーの開発がより重要になってきました。ADのバイオマーカーとしては、これまで脳脊髄液中のAβ1-42やリン酸化タウ、あるいはアミロイドPETが知られていましたが、前者は侵襲性を避けられないこと、後者は医療費が高額になることが欠点でした。このような状況で、ドイツ・ウルム大学附属病院のPatrick Oeckl博士らは、一連の研究により、ADやプリオン病(クロイツフェルト・ヤコブ病など)において脳脊髄液、及び、血清中のβSの発現が高値を呈することを発見し、これらの疾患におけるバイオマーカーになる可能性を示しました(アルツハイマー病のバイオマーカーとしての血清β-シヌクレイン〈2023/12/26掲載〉)(図1)。しかしながら、これまでの研究結果は、いくつかの異なる研究に基づいた横断的研究*3から得られたものであり、同じ患者さん由来のサンプルを解析する縦断的研究*3の方がβSの変化が早期診断、予測、疾患の進行および治療モニタリングにどのように用いられているかを評価する上で有効です。このような考えで、今回の観察研究では、ADNIの463人の参加者を対象に、IP-MSにより血清βSを解析しました。その結果、縦断的データによると、血清βSのレベルは、AD連続体;無症候性障害、軽度認知障害MCI、認知症のすべての段階で動的であり、MCIから認知症への変換および将来の認知機能の低下を予測していました。これらの結果は、血清βSのバイオマーカーとしての有用性を示唆するものであり、最近、Alzheimers Res Ther誌に掲載されましたので、今回は、その論文(文献1)について報告いたします。著者らは、血清βSの値が上昇するメカニズムとして、AD初期のシナプス機能不全により神経細胞内のβSが細胞外に漏出することが原因だと考えていますが、その他の神経変性疾患と異なり、ADやプリオン病で選択的に血清βS値が上昇するのを説明するのは不十分であり(図1)、今後、抗アミロイド免疫療法を改良して行く上でも、病態メカニズムをより深く理解することが必要に思われます。
文献1.
Patrick Oeckl, Samir Abu-Rumeileh, Christopher M Weise et al. Longitudinal changes of blood β-synuclein in cognitively unimpaired, mild cognitive impairment and sporadic Alzheimer´s disease. Alzheimers Res Ther 2026;18(1):45.
最近の研究は、βSはADの新しいシナプス血液バイオマーカーであり、認知機能障害、脳萎縮、アミロイド/タウ病理と相関することを示している。現時点で、個々の患者からの縦断データは欠落しているが、βSの変化が早期診断、予測、疾患の進行および治療モニタリングにどのように用いられているかを評価する上で重要であり、これを明らかにすることが本研究の目的である。
この観察研究では、ADNIの463人の参加者を対象に、IP-MSによる血清βSを解析した。これには、CU (Cognitively unimpaired: 無症候性障害)、MCI、およびAD認知症の被験者(1件以上のフォローアップサンプル、および、最大19年間の臨床的フォローアップ)を対象とした。また、軽度認知障害(MCI)、および235人を対象とした194人の参加者に対して、CSFのADバイオマーカー値が利用可能であった。
本研究より得られた縦断データは、将来の認知機能低下およびMCIから認知症への変換を予測する際に血清βSレベルを使用することを指示するものである。しかしながら、生物学的および臨床的に定義された参加者を対象としたさらなる研究で、AD連続体におけるβSの軌跡を検証する必要がある。