
近年、発達障害に関わる原因遺伝子がいくつか同定されてきましたが、病気が引き起こされる分子メカニズムは不明な点が多く、病気のバイオマーカーや治療法は確立されていません。PMSは、染色体22q13.3の末端または中間部欠失により、また、まれに均衡型転座または病原性変異によるシナプス足場タンパク質をコードするSHANK3遺伝子のハプロ不全が原因となり、精神発達障害を来たす疾患群です。PMSの特徴的な症状は, 筋緊張低下、知的障害、発語遅滞、自閉症様行動、および胃食道逆流などがあり、自閉症スペクトラム障害(自閉スペクトラム症と認知症の世代を超えた相関関係〈2026/2/5掲載〉
)の比較的頻繁な原因であると考えられています。将来的には、ウイルスベクターでSHANK3遺伝子を発現する、あるいは、ゲノム編集技術などによりSHANK3遺伝子を元に戻すといった根治療法が確立されることが期待されます(図1)。現時点では、運動療法、コミュニケーション能力の訓練、理学療法、作業療法や薬物療法などの対症療法が行われていますが、患者の層別化をサポートし、予後を知らせ、治療試験のためのモニタリングおよび薬力学的エンドポイントを提供できる、客観的なバイオマーカーの開発が望まれています(図1)。このような状況で、ドイツ、ウルム大学のJessica Pagano博士らは、PMS患者さん由来の血液サンプルの解析を行ったパイロット研究(n=23)において、症状の重症度に応じて、PBMCにおけるSHANK3タンパク質の発現量が対照群と比較して著しく低下し、他方、血漿中のβSが有意に増加していることを見出しました。βSは、シナプス前タンパク質であり、神経伝達に関与するタンパク質であると考えられています。今回のパイロット研究によって得られた2つの分子;SHANK3とβS, がサンプル数を増やした更なる研究により、PMSのバイオマーカーとして確立することが期待されました。今回は、最近、Translational Psychiatry誌に掲載された論文(文献1)について報告いたします。
文献1.
Pagano, J., Perez Arevalo, A., Nosanova, A. et al. SHANK3 and beta-synuclein are novel blood-based biomarkers for the Phelan-McDermid Syndrome: a pilot study. Transl Psychiatry 16, 201 (2026).
PMSの半数以上が、言語、認知、運動能力、行動において機能障害を示している。これに対して、複数の継続的な治療プログラムが活発に行われているにもかかわらず、患者の階層化をサポートし、疾患経過や治療反応をモニタリングするための客観的でスケーラブルな液体バイオマーカーは依然として不足している。したがって、が、本プロジェクトの研究目的は、PMSのバイオマーカーを確立することである。
上記の目的の初期段階パイロット研究として、SHANK3およびβSの2つの分子に注目し、PMS患者23人由来の血液サンプルを解析した。前者は、末梢血液単核細胞PBMCにおけるSHANK3タンパク質の発現量をウェスタンブロットで定量化し、後者に関しては、血漿中のβSを免疫沈降-質量分析により定量化した。
これらの結果は、PBMCsにおけるSHANK3および血漿βSが相補的な液体バイオマーカーとして初期証拠となり、PMSにおける予後支援および治療的反応の客観的モニタリングを可能にし、大規模および小児の縦断コホートにおける検証を保証するものである。