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一般向け 研究者向け 査読前論文

2026/7/7

がん遺伝子産物MYCはアミロイド原性タンパク質である

文責:橋本 款

今回の論文のポイント

  • 転写因子c-MYCは、多様な生物学的プロセスを中心的に制御する発がん性因子である。しかしながら、逆説的に、c-MYCはアポトーシスを通じて、腫瘍抑制作用による内在的な活性を持つことも示されている。
  • c-MYCはヒトのがん組織やアルツハイマー病の脳において、可溶性アミロイド*1様オリゴマーに組み込まれることから、アミロイドタンパクとしての特性がc-MYCの機能に関与していると考えられた。
  • c-MYCがアミロイド原性タンパク質としての性質を持つことが、c-MYCのユニークな作用に関係していると仮定し、本研究では、c-MYCのアミロイドタンパク質としての性質を試験管内(in vitro)、細胞実験系において解析した。その結果、c-MYCは、アミロイド蛋白であることがわかった。
  • これらの結果は、c-MYCの作用は、アミロイドにより制御されるが、がん病態においては、アミロイド凝集の構造変化により、その制御が破綻する可能性が考えられる。
図1.

c-MYCは、細胞の成長・増殖・代謝・アポトーシスなど多くの遺伝子を制御する転写因子をコードするプロトオンコジーン*2産物であり、その発現が破綻し過剰になると多くのヒトがんで腫瘍形成に深く関与します。c-MYCはがん細胞の維持に必須とされ、特にリンパ腫や固形がんなど多様ながん種で、c-MYCの高発現と予後不良の関連が報告されています。これまで、c-MYCの直接阻害を目指す創薬研究や間接的な制御経路を狙う戦略が検討されていますが、正常細胞の機能維持にも重要で、構造的にも「薬剤標的にしにくい」タンパク質とされてきました。また、興味深いことに、c-MYCは、多様な生物学的プロセスを中心的な制御因子として、発がん性を促進する因子として働く一方で、アポトーシスを通じて、腫瘍抑制作用のための内在的な活性を有し、「c-MYCパラドックス*3」と呼ばれていますが(図1)、現時点でその二面性のメカニズムは不明です。

興味深いことに、c-MYCはヒトのがん組織やアルツハイマー病の脳において、可溶性アミロイド様オリゴマーに組み込まれることが知られており、したがって、アミロイドタンパクとしての特性がc-MYCの機能に関与していると考えられました。このようにして、米国・国立衛生研究所(NIH)のLing Lin博士らは、c-MYCがアミロイド原性タンパク質としての性質を持つことが、c-MYCのユニークな作用に関係しているのではないかと考え、この仮説を証明するために、今回、第一段階として、c-MYCのアミロイドタンパク質としての性質をin vitro、細胞実験系において評価したところ、c-MYCはアミロイド原性タンパク質であることが、明らかになりました。その結果を投稿中の論文が、bioRxivに掲載されましたので、今回は、その論文(文献1)について報告いたします。今後、アミロイド原性を考慮に入れることによりc-MYCパラドックスの機序が明らかになり、将来的に治療に結びつくことが期待されます。


文献1.
Ling Lin, Kun-Han Chuang and Chengkai Dai, c-MYC is an aggregation-prone, amyloidogenic protein, bioRxiv [Preprint]. 2026, 03.12.711438.


【背景・目的】

c-MYCは、多様な生物学的プロセスを中心的に制御する転写因子である。c-MYCは、発がん性因子として知られるが、逆説的に、アポトーシスを通じて、腫瘍抑制作用を持つことも示されている。c-MYCはヒトのがんやアルツハイマー病の脳において、可溶性アミロイド様オリゴマーに組み込まれることが知られており、アミロイドタンパクとしての特性がc-MYCの機能に関与していると考えられる。これを明らかにすることが本研究の目的である。

【方法】

上記の目的のため、第一段階として、c-MYCのアミロイドタンパク質としての性質をin vitro(組み換え蛋白質)、および、培養細胞系の実験系で評価した。

【結果】

  • 有毒性ストレス下では、c-MYCは洗剤不溶性の凝集体となった。
  • In vitroでは、組換えC-MYCタンパク質がアミロイドオリゴマーおよび原始線維を自発的に形成した。
  • 一方、その単数化倍率パートナーであるMAX*4は非アミロイド原性であり、c-MYCアミロイド新生を抑制した。
  • c-MYCにアミロイド原性をもたらす天然構造非形成領域*5をマッピング研究により同定した。
  • 興味深いことに、c-MYCのアミロイド状態は、転写とはほとんど独立してアポトーシスを引き起こした。

【結論】

これらの結果は、c-MYCは、アミロイド蛋白であり、その作用は、アミロイドにより制御されるが、がん病態においては、アミロイド凝集の構造変化により、その制御が破綻する可能性を示唆するものである。

用語の解説

*1.アミロイド(Amyloids)
アミロイドはある特定の構造を持つ水に溶けない繊維状のタンパク質であり、器官にアミロイドが異常に蓄積すると、アミロイド症などの神経変性疾患の原因になる。
  • アミロイドの古典的で組織病理学的な定義は、細胞外で、タンパク質性で、βシート構造が積層して沈着しているものである。この状態はクロスβ構造と呼ばれており、コンゴーレッド(第2世代アゾ染料)で着色して偏光顕微鏡で観察すると、複屈折により青リンゴ色に見える。これらの沈着物は糖など別の物質、例えば血清アミロイドP成分などと結合して複雑で異質な物質に変わる。ただし、最近では細胞内にあるアミロイドも発見されており、この定義では不完全である。
  • 生物物理学的な定義では、生体内あるいは生体内を模した試験管内で起き、クロスβ構造を形成する重合した全てのポリペプチドを含む。これらの中には、明確なクロスβ構造であっても、コンゴーレッドによる複屈折といった伝統的な病理組織学の特徴を示さないものもある。
*2.プロトオンコジーン(Protooncogene)
プロトオンコジーンとは、正常細胞の増殖や分化を調節するが、変異・増幅・転座などによりがん遺伝子(オンコジーン)として働き、腫瘍化を引き起こし得る遺伝子のことである。
*3.c-MYCパラドックス
c-MYCパラドックスとは、細胞増殖を強力に促進するcMYCが、同時に、アポトーシス(細胞死)も誘導しうるという、一見矛盾した二面性を指す概念であり、このバランス破綻が発がんに重要とされている。
*4.MAX
c-MYCはbHLH-LZ型転写因子で、MAXと結合して機能する。MAXは「MYC-associated factor X」の略で、c-MYCの必須パートナー。「MYC-MAX」とは、がん関連転写因子c-MYCとそのパートナー蛋白質MAXがつくるヘテロ二量体複合体であり、細胞増殖や代謝を促進する多くの遺伝子の転写を活性化する重要な制御ユニットである。
*5.天然構造非形成領域(Intrinsically disordered region)
生理的条件下で特定の立体構造をとらず,揺らいだままであるタンパク質の領域のこと.柔軟な構造を活かして,多様な分子と結合したり,分子スイッチとして機能したりするなど,細胞内のシグナル伝達や転写調節といった多様な生命現象で重要な役割を担っている。

文献1
Ling Lin, Kun-Han Chuang and Chengkai Dai, c-MYC is an aggregation-prone, amyloidogenic protein, bioRxiv [Preprint]. 2026, 03.12.711438.