
c-MYCは、細胞の成長・増殖・代謝・アポトーシスなど多くの遺伝子を制御する転写因子をコードするプロトオンコジーン*2産物であり、その発現が破綻し過剰になると多くのヒトがんで腫瘍形成に深く関与します。c-MYCはがん細胞の維持に必須とされ、特にリンパ腫や固形がんなど多様ながん種で、c-MYCの高発現と予後不良の関連が報告されています。これまで、c-MYCの直接阻害を目指す創薬研究や間接的な制御経路を狙う戦略が検討されていますが、正常細胞の機能維持にも重要で、構造的にも「薬剤標的にしにくい」タンパク質とされてきました。また、興味深いことに、c-MYCは、多様な生物学的プロセスを中心的な制御因子として、発がん性を促進する因子として働く一方で、アポトーシスを通じて、腫瘍抑制作用のための内在的な活性を有し、「c-MYCパラドックス*3」と呼ばれていますが(図1)、現時点でその二面性のメカニズムは不明です。
興味深いことに、c-MYCはヒトのがん組織やアルツハイマー病の脳において、可溶性アミロイド様オリゴマーに組み込まれることが知られており、したがって、アミロイドタンパクとしての特性がc-MYCの機能に関与していると考えられました。このようにして、米国・国立衛生研究所(NIH)のLing Lin博士らは、c-MYCがアミロイド原性タンパク質としての性質を持つことが、c-MYCのユニークな作用に関係しているのではないかと考え、この仮説を証明するために、今回、第一段階として、c-MYCのアミロイドタンパク質としての性質をin vitro、細胞実験系において評価したところ、c-MYCはアミロイド原性タンパク質であることが、明らかになりました。その結果を投稿中の論文が、bioRxivに掲載されましたので、今回は、その論文(文献1)について報告いたします。今後、アミロイド原性を考慮に入れることによりc-MYCパラドックスの機序が明らかになり、将来的に治療に結びつくことが期待されます。
文献1.
Ling Lin, Kun-Han Chuang and Chengkai Dai, c-MYC is an aggregation-prone, amyloidogenic protein, bioRxiv [Preprint]. 2026, 03.12.711438.
c-MYCは、多様な生物学的プロセスを中心的に制御する転写因子である。c-MYCは、発がん性因子として知られるが、逆説的に、アポトーシスを通じて、腫瘍抑制作用を持つことも示されている。c-MYCはヒトのがんやアルツハイマー病の脳において、可溶性アミロイド様オリゴマーに組み込まれることが知られており、アミロイドタンパクとしての特性がc-MYCの機能に関与していると考えられる。これを明らかにすることが本研究の目的である。
上記の目的のため、第一段階として、c-MYCのアミロイドタンパク質としての性質をin vitro(組み換え蛋白質)、および、培養細胞系の実験系で評価した。
これらの結果は、c-MYCは、アミロイド蛋白であり、その作用は、アミロイドにより制御されるが、がん病態においては、アミロイド凝集の構造変化により、その制御が破綻する可能性を示唆するものである。