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2026/8/6

新しい抗肥満症治療薬:カグリセマの開発

文責:橋本 款

今回の論文のポイント

  • 近年、Novo Nordisk(ノボ・ノルディスク)社は、新規抗肥満症治療薬CagriSema(カグリセマ)の開発を行っている。カグリセマは、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)*1 受容体作動薬であるセマグルチドとアミリン*2 アナログであるカグリリンチドの配合剤*3 である(図1)。
  • 本プロジェクトは、東アジア人におけるカグリセマの抗肥満症を評価するため第3相臨床試験であり、日本、台湾の多施設が参加して行われた。その結果、セマグルチド単独に比べて、セマグルチドとカグリンチドを併用することにより、抗肥満効果が有意に大きくなることを観察した(図1)。
  • この結果より、カグリセマは「GLP-1+アミリンアナログ」という新しい作用機序を持つ薬剤となる可能性が期待される。
図1.

近年、世界中で肥満症の患者数が増大していること、また、肥満症が糖尿病や心血管疾患や多くの慢性疾患の根幹となり得ること、さらに、ダイエットブームなど多くの要因が相まって、抗肥満治療薬の開発競争が激化しています。このような状況で、デンマークの大手製薬会社Novo Nordisk(ノボ・ノルディスク)は、カグリセマの開発に際して、一連の臨床試験(REDEFINE)1~5を行いました。カグリセマは、GLP-1受容体作動薬であるセマグルチドと長時間作用型アミリンアナログであるカグリリンチドの配合剤で(図1)、GLP-1、アミリンの両者は、いずれも食欲抑制ホルモンとして働きますが、異なる機序で作用するため、(例えば、脳においては、GLP-1は孤束核→ 視床下部、アミリンは最後野→ 視床下部に作用する)、相加・相乗的に食欲が抑制されるのでないかと思われました。実際、小規模の第2相臨床試験では、セマグルチド単独に較べて、カグリセマは約2倍の体重減少を示し、大きな期待を集めていました。本論文で紹介するREDEFINE5:第3相臨床試験においては、東京大学の山内敏正博士らが中心となり、日本、台湾の多施設が参加して行われました。その結果、セマグルチド単独に比べて、セマグルチドとカグリンチドを併用することにより、抗肥満効果が有意に大きくなることから(図1)、カグリセマは「GLP-1+アミリンアナログ」という新しい作用機序を持つ画期的な薬剤となる可能性が示されました。これらの結果は、最近のThe Lancet Diabetes & Endocrinologyに掲載されましたので、今回は、この論文(文献1)を取り上げます。興味深いことにGLP-1はパーキンソン病や認知症の治療効果を持つ可能性が言われていることから、神経変性疾患の治療という視点からも意義深い知見であると思われます。


文献1.
Toshimasa Yamauchi al. (2026), Efficacy and safety of co-administered cagrilintide and semaglutide versus semaglutide alone in adults with overweight or obesity with or without type 2 diabetes in Japan and Taiwan (REDEFINE 5): a multicentre, randomised, active-controlled, phase 3a trial, The Lancet Diabetes & Endocrinology 14, 450-462


【背景・目的】

これまで、カグリリンチドとセマグルチドの組み合わせは、体重減少を引き起こすことが世界的に示されている。したがって、東アジアにおいて、カグリリンチド2.4mgとセマグルチド2.4mgの固定用量併用とセマグルチド2.4mgの有効性および安全性を比較して、評価することが本研究の目的である。

【方法】

  • カグリセマ配合薬開発の目的のため、日本の21か所(地域、病院)および台湾の1か所の施設で臨床試験(REDEFINE)5:フェーズ3a試験;二重盲検*4 、並行群間比較試験*5 を実施した。ClinicalTrials.gov(NCT05813925)

BMI*6 が27kg/m2以上、肥満関連の合併症が少なくとも2つ以上ある18歳以上、またはBMIが少なくとも35kg/m2以上、肥満関連の合併症が少なくとも1つ(日本肥満学会ガイドラインによる)ある患者さんが、2型糖尿病の有無にかかわらず参加した。

参加者は、週に1回、カグリリンチド・セマグルチドまたはセマグルチド(どちらも2.4mg)を皮下注射でランダムに投与され、さらに生活習慣への介入も68週間にわたり行われた。参加者や研究者などが、どの有効薬(アクティブ薬)を投与されているか分からないように隠された。

主要評価項目は、ベースラインから第68週までの体重の相対的な変化であった。ランダム化投与*7 を受け、少なくとも1回の試験用製品を投与されたすべての参加者において、安全性分析が実施された。

【結果】

  • 2023年4月3日から2023年9月15日までの間、355人を対象にスクリーニングを行った。331人は無作為にカグリリンチド・セマグルチド(n=164)またはセマグルチド(n=167)に割り付けられた。参加者は男性で226人、女性は105人(32%)、2型糖尿病は80人(24%)であった。参加者17人(10%)がカグリリンチド・セマグルチドを、10人(6%)がセマグルチドを中止した。体重がベースラインから第68週までに平均変化したと推定されるのは、セマグルチド群におけるカグリリンチド・セマグルチド群では-18.4%であり、セマグルチド群では-11.9%;(p<00.0001)であった。
  • 有害事象は、セマグルチド群164人の参加者のうち143人(87%)、セマグルチド群167人中141人(84%)が報告された。このうち最も多かったのは消化管疾患であった;セマグルチド群164人中87人(53%)、セマグルチド群167人中85人(51%)。セマグルチド群で1件の死亡が報告されたが、治療との関連性はなかった。

【結論】

これらの結果は、過体重または肥満、2型糖尿病の有無にかかわらず、東アジア地域の人における体重管理におけるカグリリンチド・セマグルチドの有効性と安全性を裏付けている。

用語の解説

*1.グルカゴン様ペプチド-1(Glucagon-like peptide-1:GLP-1)
GLP-1とは、消化管ホルモンの一種で、消化管に入った炭水化物をはじめとする種々の栄養素を認識して消化管粘膜上皮から分泌される。分泌されたGLP-1は膵臓のランゲルハンス島β細胞に作用して、インスリン分泌を介した血糖降下作用を示す。GLP-1は腸管のL細胞から、摂取された栄養素に応じて分泌される。その分泌は、単糖類、ペプチド・アミノ酸、一価不飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸、および短鎖脂肪酸に特異的に結合するGタンパク質共役受容体を介した直接的な栄養感知によって部分的に媒介されることが報告されている。
*2.アミリン(Amylin)
アミリンまたは膵島アミロイドポリペプチド(Islet amyloid polypeptide: IAPP)は、37残基からなるペプチドホルモンである。アミリンは膵臓のβ細胞からインスリンとともに分泌される(インスリン:アミリン比は約100:1)。アミリンは胃の内容物排出速度を低下させて満腹感を促進することで血糖値の調節に関与し、食後の血糖値スパイクを防ぐ。IAPPは89残基のコーディング配列からプロセシングされる。
*3.配合剤(Combination drug)
配合剤とは、複数の有効成分を一定の割合で1つの製剤(錠剤・カプセルなど)にまとめた医薬品を指し、服薬数の削減や効果の相乗・補完を目的として用いられる。日本の通知類では、既承認の有効成分の組み合わせや配合割合に基づき「新医療用配合剤」「類似処方医療用配合剤」などの区分が定義されている。
*4.二重盲検
臨床試験を行う際に、被験者がどの治療群に割りつけられたかを被験者も医師も知らない条件の比較試験。 臨床試験は、新薬などが投与される処置群と、既存薬あるいはプラセボが投与される対照群に分けて行われる。処置群と対照群は無作為に選択される必要がある。
*5.並行群間試験
並行群間試験とは、被験者を複数のグループに分けて、各グループに異なる処置を同時進行で行い、その結果を比較する試験デザインのことである。「並行群間比較試験」「パラレル群間試験」「パラレルデザイン」などとも呼ばれる。
*6.BMI(Body Mass Index)
BMI=体重kg ÷ (身長m)2はボディマス指数と呼ばれ、体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数である。子供には別の指数が存在するが、成人ではBMIが国際的な指標として用いられる。健康を維持するためは日頃からBMIを把握することが重要である。
*7.ランダム化投与
ある試験的操作(介入・治療など)を行うこと以外は公平になるように、対象の集団(特定の疾患患者など)を無作為に複数の群(介入群と対照群や、通常+新治療を行う群と通常の治療のみの群など)に分け、その試験的操作の影響・効果を測定し、明らかにするための比較研究である。群分けをランダムに行うのは,背景因子の偏り(交絡因子)をできるだけ小さくするためであるが、コンピュータで乱数を発生させ、割り付け表を使用する方法が適切だとされている。

文献1
Toshimasa Yamauchi al. (2026), Efficacy and safety of co-administered cagrilintide and semaglutide versus semaglutide alone in adults with overweight or obesity with or without type 2 diabetes in Japan and Taiwan (REDEFINE 5): a multicentre, randomised, active-controlled, phase 3a trial, The Lancet Diabetes & Endocrinology 14, 450-462