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2026/8/18

アフリカ西海岸エボラ出血熱の流行に対する緊急事態宣言

文責:橋本 款

今回の論文のポイント

  • 2026年、コンゴ民主共和国とウガンダでエボラ出血熱(EHF)*1 が流行し、5月27日時点で、129件の確定症例、1,077件の疑い例、および246件の疑い死が報告されている。(この原稿を執筆時;8月15日においては、死亡者数は2,000人を超えたとされている。)
  • これに対して、世界保健機関 (WHO)は、『国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)』*2 に該当する旨を宣言し(図1)、同時に、アフリカ疾病予防管理センター(アフリカCDC)*3 は、『大陸安全保障の公衆衛生上の緊急事態(PHECS)』*4 を表明した。
  • WHOとアフリカCDCが協力して、早期発見、感染拡大の阻止、および感染予防対策が直ちに強化され、さらに、EHFを引き起こす原因となったブンディブギョウイルス*5 の治療薬およびワクチン作製を含めた緊急加速的な研究開発が期待される。
図1.

2026年5月17日にWHOは、コンゴ民主共和国とウガンダで発生したEHFの流行の状況がPHEICに該当する旨を表明しました(図1)。EHFに関連した緊急事態宣言は、今回で、3度目になります。EHFは重篤な症状を呈し、致死率の高い感染症です。現時点で、日本国内においても感染者を確認したという報告はありませんが、近年のグローバル化社会においては、そのような状況になることもあり得ますので、注視しておかなければなりません。同時に、アフリカCDCは、今回のEHFに関連して、PHECSを宣言しましたが、最近、アフリカCDCのNgashi Ngongo博士らによるLANCETに掲載されたCorrespondence(文献1)においてPHEIC, PHECSともに述べられていますのでこの論文を紹介いたします。


文献1.
Ngashi Ngongo et al. (2026), ECorrespondence WHO and Africa CDC declare the 2026 Ebola disease outbreak a public health emergency, The Lancet 407, 2497-2498


コンゴ民主共和国およびウガンダにおけるエボラウイルス感染症の2026年の発生はブンディブギョウイルスによって引き起こされた。現在の発生は、その疫学的および運用上の複雑さゆえに特に懸念される。2026年5月27日時点で、コンゴ民主共和国およびウガンダで、129件の確定症例、1,077件の疑い例、および246件の疑い死が報告されている。

移動性の高い採掘および商業回廊、紛争の影響を受けた地域での感染拡大のリスクが高まっており、検出が遅延することにより、さらに増幅された。現在、ブンディブギョウイルスに対する診断、治療薬、ワクチンが不十分であることから、再び深刻な事態に直面しており、世界的な健康安全保障におけるより広範な構造的不均衡が反映されている。この分野では、研究開発の重点課題が脆弱な地域における疫学的現実よりも、市場のインセンティブによってより大きく推進されている。

これらの現実を認識して、WHOは、今回のエボラ出血熱の流行を国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)を表明したが、一方、アフリカCDCは、大陸安全保障の公衆衛生上の緊急事態(PHECS)としてそれぞれ宣言し、連携した対応を促した。この宣言は、アフリカの保健主権および大陸統治メカニズムの制度化が進んでいることを反映している。宣言前の関連する政治的指導部および科学専門家の関与は、疫病の脅威が、アフリカの政治的指導力と実務的連帯を結集する必要がある大陸の安全保障上の懸念を構成しているという認識がますます高まっていることを示している。疫学的傾向、感染リスク、医療システムへの影響、運用上の複雑さ、社会経済的影響について広範にわたって検討した結果、アフリカCDC緊急協議グループは、この感染症の深刻さ、国境を越えるリスク、および地域的および世界的な健康安全保障への影響により、この感染症の発生がPHECSの閾値に達したと結論づけた。

緊急協議グループはまた、インシデント管理支援チーム、政府、技術機関、ドナー、非政府組織、研究機関、人道支援関係者の分断の縮小と意思決定の迅速化を図ることを提言した。対応には、インシデント管理支援チーム体制の迅速な実施と、被災国と周辺国間の国境を越えた連携の強化が必要である。強化された監視および分散型診断による即時隔離による早期発見は、緊急に拡大されなければならない。感染予防および対策も直ちに強化する必要がある。安全で尊厳ある埋葬、定期的な手洗い、症状のある個体や病気または死亡した動物との直接的な接触を避けることは、介護や葬儀の実施中に地域社会への感染を減らし、曝露を減らすために優先されなければならない。恐怖、偏見、誤情報、および公衆衛生対策への抵抗に対抗するためには、コミュニティの関与と文化的にセンシティブなリスクコミュニケーションが不可欠である。さらに、ブンディブギョウイルス病のワクチン、治療薬の開発のために、緊急加速的な研究が必要である。

用語の解説

*1.エボラ出血熱(Ebola hemorrhagic fever:EHF)
エボラ出血熱は、フィロウイルス科エボラウイルス属のウイルスを病原体とする急性ウイルス性感染症であり、主にアフリカで発生する。マールブルグ病、ラッサ熱、南米出血熱、クリミア・コンゴ出血熱と並ぶ、ウイルス性出血熱の1つだが、感染者が必ずしも出血症状を呈するわけではないため、国際的には呼称がエボラ出血熱からエボラウイルス病(Ebola virus disease:EVD)へ切り替わりつつある。ヒトに感染し、治療開始が遅れると致死率は80 - 90%に上る。毒性、致死率、症状の重篤さがあまりにも高く、患者が長距離移動する前に死亡してしまうことが専らであるため、現在のところ世界的流行には至っていない。エボラウイルスは大きさが80 - 800 nmの細長いRNAウイルスである。ひも状、U字型、ぜんまい型など形は決まっておらず、多種多様である。免疫系を攪乱し、生体の防御機構をすり抜けるという特徴があり、感染性の高さに繋がっている。また、ウイルス増殖の際に体細胞の構成要素であるタンパク質を分解することで、全組織を傷害し、最強の毒性を発揮する。さらに、ウイルスが免疫系の中枢である白血球を大量に破壊し、サイトカインストームを起こして血管を傷害し、血栓を作り、肝臓を始めとする全身の臓器を冒す。これら多重の攻撃によって発症者を確実に死に至らしめる。エボラウイルスに感染し、症状が出ている患者の体液等(血液、分泌物、吐物・排泄物)や患者の体液等に汚染された物質(注射針など)に十分な防護なしに触れた際、ウイルスが傷口や粘膜から侵入することで感染する。一般的に、症状のない患者からは感染せず、空気感染もない。 流行地では、エボラウイルスに感染した野生動物(オオコウモリ(自然宿主とされている)、サル、アンテロープ等)の死体やその生肉に直接触れた人がエボラウイルスに感染することで、自然界から人間社会にエボラウイルスが持ち込まれていると考えられる。
*2.国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public health emergency of international concern: PHEIC)
PHEICとは、大規模な疾病発生のうち、国際的な対応を特に必要とするもの。従来は黄熱病、コレラ、ペストの流行を指していたが、21世紀に入ると2003年に重症急性呼吸器症候群 (SARS) が中国を中心にアウトブレイクを起こすなど新興感染症の懸念や再興感染症、バイオテロに対応する必要性があり、さらに伝染病検知の隠蔽防止の観点から国際保健規則が2005年に改定され、原因を問わず国際的な公衆衛生上の脅威となりうるあらゆる事象が対象となった。
*3.アフリカ疾病予防管理センター(Africa Centre for Disease Control and Prevention: アフリカCDC)
アフリカCDC(Africa CDC)は、アフリカ連合(AU)の公衆衛生専門機関を指し、各加盟国の保健機関を支援し、感染症などの健康危機への備えと対応力を高める役割がある。疫病監視(サーベイランス)やデータ収集を行い、アウトブレイクを早期に探知します。加盟国の検査・研究用ラボネットワークや人材育成を支援する。エボラ、COVID19、サル痘などの感染症流行時に、技術支援や物資調整を行う。アフリカCDCは2016年に設立が承認され、2017年に正式に発足した。本部はエチオピアの首都アディスアベバにあり、アフリカ各地域に地域センターを持つ。
*4.大陸安全保障の公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of Continental Security: PHECS)
PHECSは、アフリカCDCが定めた大陸レベルの公衆衛生緊急事態宣言である。WHOのPHEICに相当する、アフリカ大陸版の仕組みと理解できる。アフリカ連合の専門機関であるアフリカCDCが、大陸全体の安全保障に関わる重大な健康危機と判断したときに出す宣言である。複数国にまたがる感染症流行などが、大陸内外へ拡大する深刻なリスクを持つ場合に用いられる。大陸レベルでの迅速な資源動員(資金、人材、医療物資)と、各国政府・国際機関との調整を加速することが主目的である。監視・検査体制の強化、ワクチンや治療薬の確保、リスクコミュニケーションなどを一体的に進める政治的・技術的な「号令」として機能する。
*5.ブンディブギョウイルス
ブンディブギョウイルスは、フィロウイルス科オルソエボラウイルス属に属する非分節型マイナス鎖1本鎖RNAウイルスの一種である。オルソエボラウイルス属には、ほかにザイール、スーダン、タイフォレスト、レストン、ボンバリの5種があり、計6種に分類されている。

文献1
Ngashi Ngongo et al. (2026), ECorrespondence WHO and Africa CDC declare the 2026 Ebola disease outbreak a public health emergency, The Lancet 407, 2497-2498